漫画広告の落とし穴!著作権の「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」とは?

漫画広告の落とし穴!著作権の「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」とは?

マーケティング活動で漫画やイラストを活用するときは、著作権に関して適切に権利処理をすることが大切です。特に「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」の取り扱いを間違えると、制作物の利用が制限されたり追加費用が発生したりと、大きな問題につながる可能性があります。

この記事では、マーケティング担当者が知っておくべき著作権の基礎知識と、特に注意が必要な「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」について解説します。

漫画広告についてはこちらの記事で詳しく説明しているので、あわせてチェックしてみてください。

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ビギニャー

以前漫画広告を制作した際にイラストレーターの先生にデザインしてもらったキャラクターが好評だったから、他の広告にも活用したいんですよね~。

シニヤン

好評だった制作物を積極的に活用するのはいいことだね。もちろん、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」は移転してもらっているよね?

ビギニャー

はえ?にじてき……なんですか?

漫画広告で気をつけたい「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」

マーケティング活動の際は、クリエイターに漫画やイラストを制作してもらう必要があります。この際、制作物の取り扱いにはさまざまな注意点がありますが、特に気をつけたいのが「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」です。

制作物を受け取る際、この権利も一緒に移転してもらわないと、以下のような問題が発生する可能性があり、マーケティング活動の幅が大きく制限されてしまいます。

  • 制作物を別の用途に転用できない
  • 制作物の一部を抜き出して使用できない
  • デザインの変更や改変ができない
  • 追加の許諾や費用が必要になる

まずは、漫画広告で気をつけたい「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」について理解していきましょう。

「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」とは?

二次的著作物の作成及び利用に関する権利とは、著作権法第27条と第28条で定められた権利です。

著作権法第27条は、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化するなどして二次的著作物を作成する権利について定めています。例えば、以下のような行為が二次的著作物の作成に該当します。

  • 漫画広告のイラストを一部だけくりぬく
  • キャラクターの髪色や服装を変更する
  • 八頭身の漫画の登場人物を二頭身のマスコットキャラクターにデザインし直す
  • キャラクターを使って新たに4コマ漫画化する

また、著作権法第28条では、「原著作物の著作者は、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同じ権利を有する」ことを定めています。

例えば、イラストレーターが作成したキャラクターを企業が4コマ漫画化(二次的著作物の作成)した場合、原著作者であるイラストレーターにも4コマ漫画を無断で複製されない権利が発生するということです。

発注者である企業にとって「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」が必要な理由

「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」の移転は、企業がマーケティング活動をするうえで非常に重要です。この権利移転を適切に行わないと、マーケティング施策を展開しにくくなってしまうためです。

例えば、当初Web広告用に制作した漫画を、後日別の目的で印刷物やグッズ用に編集して使用することができない、もしくは追加の許可や費用が必要になる可能性があります。また、キャラクターの表情や衣装を変更してシーズンごとのプロモーションに使用することや、新しいグッズ・ノベルティの制作も難しくなります。

結果として、柔軟に他のコンテンツへの二次利用ができないばかりか、その都度許諾を得たり追加費用が発生したりすることになってしまうのです。業務の円滑な遂行のためにも、制作物の発注時点でこれらの権利関係を整理しておくことが重要です。

ビギニャー

なるほど!では、さっそく先生に確認を取ってきます。(後日)先輩、先生から「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を移転してもらうことについて承諾を得られませんでした。

シニヤン

これらの権利を移転することは、クリエイターにとって不利益となることもあるからね。そういう判断をする先生は、決して珍しくないんだ。

クリエイターが「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を“移転する”リスク

漫画家やイラストレーターなどのクリエイターにとって、二次的著作物の作成及び利用に関する権利を移転することには大きなリスクが伴います。

例えば、権利を移転することで以下のようなトラブルの発生が考えられます。

  • 成人向けメディアにオリジナルキャラクターを掲載された
  • キャラクターのコンセプトと異なる服装に変更されてグッズ化された

クリエイターが「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を移転すると、移転を受けた企業は上記のようなことが可能になります。クリエイターの漫画やイラストに、制作の意図やイメージとは異なる編集が行われてしまえば、自身のイメージやブランドが大きく低下してしまう可能性があるのです。

あわせて押さえておきたい「著作者人格権」とは?

著作者人格権とは、著作物と著作者の人格的な結びつきを保護するための権利です。クリエイターは、「著作権(複製権や二次的著作物の作成権など)」と「著作者人格権」という2つの権利を持っており、これらは互いに補完し合う関係にあります。

著作者人格権には、著作物がクリエイターの意図に反して改変されることを防ぐ「同一性保持権」や、著作者名の表示を求める「氏名表示権」などが含まれます。例えば、キャラクターが意図しない形で改変された場合は、著作者人格権にもとづいて異議を申し立てることが可能です。

ただし、「著作者人格権」を主張するときは、権利侵害の事実や損害額の立証が難しいケースがほとんどです。一方で、「著作権」にもとづく主張であれば、無断使用による利益額をそのまま損害額として賠償請求できるので、権利侵害の立証がしやすく、ひいては権利を保護しやすくなります。

言い換えると、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を移転してしまうと、著作者人格権による保護も実質的に弱まってしまう可能性が高まります。そのため、クリエイターは権利移転に慎重になることが多いのです。

ビギニャー

な、なるほどぉ。先生にとってリスクがあるなら、無理に「権利を移転してください」とは言えないですよね…。

シニヤン

そうなんだよねぇ。だけど、権利移転してもらえないと、それはそれでうちの企業にとってリスクになるんだよね。

発注者である企業にとって「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を“移転してもらえない”リスク

「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」の移転がクリエイターにとってのリスクになる半面、移転を受けられないことは企業(発注者)にとってのリスクになります。

企業がマーケティング活動をする際、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を確保できないと、以下のような施策が実施できなくなるためです。

  • Web広告用に制作した漫画からSNS投稿用の画像を切り出す
  • 人気キャラクターの衣装を季節に合わせて変更する
  • キャラクターのグッズをノベルティとして配布する

原著作者であるクリエイターにお金を払って譲り受けた制作物であっても、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」がなければ加工編集することができません。たとえ、悪質な利用をするつもりがなくてもです。

新しい展開を行うたびにクリエイターへの確認と許諾取得が必要になれば、スピーディーなマーケティング施策の実施は難しくなるでしょう。制作物を他の施策に活かしたりデザインを最適化したりすることで、魅力的な商品提供や、柔軟な施策展開の機会を逃してしまう可能性が高まります。

発注者である企業側にとっては、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利」を行っておくことで、法的リスクの回避やビジネスチャンスの拡大につなげやすくなるのです。

ビギニャー

う~ん。制作に制限が出てくるのは困っちゃいますね。もう一度きちんと先生と話して、どうするのがお互いにとって一番いいのか、考えてみようと思いますっ!

シニヤン

そうだね、お願いします。もし、話し合いがうまくいって「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」をしてもらえることになっても、これから紹介する2点には気をつけてね。

「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」を行うときのポイント

「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」を行うためには、契約時点でしっかりと権利関係を整理しておくことが大切です。

企業とクリエイター双方の利益を守りながら、成果につながるマーケティング活動を実現するための重要なポイントについてみていきましょう。

契約書に明記する

制作物の「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」を含む著作権移転を行うには、契約書に明確な規定を設ける必要があります。例えば、次のような文言を明記しておくことが有効です。

本契約にかかる成果物に関する著作権(著作権法第27条、第28条の権利を含む。)は、対価の支払い時にAからBに移転するものとする。

重要なのは、27条と28条について明記することです。単に「著作権」とだけ記載しても、「二次的著作物の作成及び利用に関する権利移転」はされない点に注意しましょう。

著作者人格権は譲渡されない

著作者人格権は、著作権とは異なり「譲渡できない権利」であると著作権法で定められています。ここには、公表権(18条)や氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)などの複数の権利が含まれ、クリエイターの人格的利益を保護する役割があります。

著作権譲渡に関する契約を結ぶときは、著作者人格権の取り扱いについても明確に定めることが一般的です。具体的には「著作者人格権不行使特約」を設けて、クリエイターに著作者人格権を行使しないことを約束してもらいます。

ただし、これはあくまでもクリエイターの同意を得たうえで締結すべきです。また、制作物を利用する企業は、著作物のイメージや価値を損なわないよう十分に配慮する必要があります。

権利移転の有無にかかわらず大切なこと

忘れてはならないのは、「著作物にはクリエイターの想いや魂が込められている」という事実です。

企業は、権利移転を受けたあともクリエイターの意図を尊重して、作品の価値を損なわない範囲で活用していくことが重要です。例えば、キャラクターの改変を必要最小限にとどめたり、使用する媒体や文脈に配慮したりするなど、慎重な判断が求められます。

権利移転が難しい場合は、利用目的や範囲を明確にしたうえで、都度の利用許諾という形を検討することも一案です。その際は、クリエイターとしっかりとコミュニケーションを取り、あらかじめ使用方法や改変内容について相談しておくことで、よりよい協力関係の構築を目指しやすくなります。

大切なのは、企業とクリエイターが互いの立場を理解して、長期的な視点で信頼関係を構築することです。この前提があってこそ、クリエイターの権利を守りながら、効果的なマーケティング活動を実現することが可能になります。

※本記事の内容は、2025年1月時点のものです。具体的な判断は個別の案件ごとに異なるため、実際に広告を制作する際は法律の専門家に相談することをおすすめします。

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WRITING 執筆

大塚 広海

大塚 広海

大学時代に知的財産法を専攻し、パテントコンテストへ出場した経験を持つ。
自社では知的財産権や景品表示法を中心に解説する動画コンテンツを公開し、啓蒙活動を行っている。暗記ではなく原理原則を理解してもらうをモットーに、「SNSにテーマパークのキャラクターが映り込んでいる画像は投稿してもいい?」「Instagram投稿キャンペーンでReFaのドライヤーを景品にできる?」など、事業現場の社員が想像しやすい身近な話題のコンテンツが好評を博している。

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