そのマーケ施策は有効?マーケター向け損益分岐点の活用と計算ガイド

そのマーケ施策は有効?マーケター向け損益分岐点の活用と計算ガイド

財務や会計の分野でよく聞く「損益分岐点」は、マーケティングにおいても非常に重要な考え方です。

損益分岐点を把握することで、マーケティング施策により利益を増やすにはどのくらいの売上をあげれば良いのかを知ることができます。これは、マーケティングの予算計画や施策立案を行う際、重要な判断基準となります。

このことから、損益分岐点を活用することは、マーケティング部署の責任者には必須のスキルであり、責任者を目指すなら、早めに押さえておきたいスキルといえるでしょう。

この記事では、マーケターがマーケティング施策に取り組む際に活用できるよう、損益分岐点の見方と算出方法、活用の仕方を事例とともに解説します。

損益分岐点とは?

損益分岐点とは、売上高と費用が全く同じ金額、つまり利益がゼロになるときの売上高のこと。損益分岐点では売上ー費用=0となり、利益も損失も発生していない状態です。

損益分岐点を売上が下回る状態では損失が出ており、損益分岐点を売上が上回ると利益が出はじめます。

損益分岐点を算出することで、どのくらい売上をあげれば利益が出るのかを把握できます

損益分岐点の計算方法

損益分岐点を計算するためには、さらにいくつかの財務・会計に関する用語の知識が必要となります。順を追って以下に解説していきます。

いずれもマーケティングに役立つものなので、一緒に押さえておきましょう。

1.「変動費」と「固定費」を知る

損益分岐点を計算するためにまず押さえておきたいのが、「変動費」と「固定費」です。費用は大きくこの2つのいずれかに分類できます。

変動費とは、売上高に比例して増減する費用のこと。たとえば、商品の原材料費やサービスの販売手数料などが変動費にあたります。

固定費とは、売上高に関わらず常に一定の期間で発生する費用のこと。たとえば、家賃や人件費、広告宣伝費なども固定費にあたります。

2.「限界利益」と「限界利益率」を求める

変動費と固定費がどのようなものか理解できたら、次に「限界利益」について押さえておきましょう。

限界利益は、「売上高-変動費」で求められる金額のことです。

限界利益率は、売上高に占める限界利益の割合を指し、「限界利益÷売上高×100」で求められます。

3.「売上高」または「販売数量」で損益分岐点を計算する

変動費、固定費、限界利益は、上図のように表せます。

ちなみに、限界利益から固定費を引いたものが「営業利益」です。損益分岐点の計算には関係しませんが、マーケティング施策に損益分岐点を活用する際に必要な考え方なので、一緒に押さえておきましょう。

これらを理解できたら、いよいよ損益分岐点の計算です。

損益分岐点は、以下の式で求めることができます。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

ちなみにこれは「売上高」で損益分岐点を計算しています。「販売数量」で計算する場合は以下の式になります。

損益分岐点販売数量=固定費÷1個あたりの限界利益

1個あたりの限界利益は、「商品1個あたりの販売価格-商品1個あたりの変動費」で求められます。

損益分岐は図表にするとわかりやすい

損益分岐点は、上図のようなグラフでよく説明されます。グラフにすることで、売上高と費用の関係がより理解しやすくなり、損益分岐点が一目でわかるのでおすすめです。

グラフではまず、縦軸に「費用・利益」、横軸に「売上高・売上数」を設定します。

「費用」のうち一定金額の「固定費」は横軸と並行の線となり、「変動費」は固定費の線からスタートする斜線で示されます。また、「売上高・売上数」は縦軸・横軸が交わる地点からスタートする斜線で示されます。

損益分岐点は、「変動費」の斜線と「売上高・売上数」の斜線が交わる地点です。グラフにおいて、損益分岐点より左では利益が出ておらず、損益分岐点より右にいくにつれて利益が大きくなります。

マーケターにとっての損益分岐点の重要性

マーケターが損益分岐点を把握することは、マーケティング予算を効果的に活用して戦略や施策を成功させるために重要なことです。

損益分岐点を把握していないと、マーケティングの戦略や施策の意義を他の人や他のチームに理解してもらえない、売上は増加しているのに利益が出ないといったことになりかねません。

商品・サービスの収益構造を理解できる

「損益分岐点の計算方法」の解説からわかる通り、損益分岐点を算出するには、固定費や変動費、限界利益や限界利益率を知る必要があります。

つまり、商品・サービスを提供するまでにかかる費用と、商品・サービスが売れることで得られる利益を、具体的な数字で把握することになります。

これにより、自分たちが扱っている商品・サービスが、どのような仕組みで利益をあげているのか、収益構造を理解できます。収益構造を理解できると、商品・サービスに関する問題点についても明確化しやすくなります。

施策実施により得るべき利益の基準となる

マーケティング施策を実施するからには、売上だけでなく利益を出す必要があります。売上が増加したように見えて、費用がかかりすぎて利益が出ていないという事態は避けたいところです。

損益分岐点を把握することで、利益目標を達成させるためには、どのくらいの売上高が必要か?変動費(Google広告運用費など)や固定費(マーケティングツール代など)をどのくらい調整する必要があるのかが明確になります。これを基に予算や目標を立てることで、効果的な予算の使い方ができます。

マーケティング施策の効果を客観視できる

マーケティング施策を実施したら、定期的に効果検証を行い、改善や新たな施策への反映を行う必要があります。施策を計画・実行し、効果検証を行い反映するというPDCAサイクルをできるだけ多く回すことで、施策の効果を高めることができます。

効果検証にはさまざまな指標や判断材料がありますが、損益分岐点は、客観的な指標のひとつです。損益分岐点について把握しておくことで、施策によって得られる利益がコストに見合ったものなのか、客観的な判断ができます。

施策の意義や効果をチーム内外に共有しやすい

マーケティング施策について検討する際、損益分岐点を把握しておくことで、どのタイミングで利益が出はじめるのか、どのようなペースで最終的にどのくらい利益が見込めるのかを明確に説明できます。

これにより、チーム内はもちろん、他のチームや部署、外部パートナーなどとも、施策の意義を共有しやすくなります。施策の意義が正しく共有されていると、施策実施のための連携や協力がスムーズです。

数字で語れることは自分の評価にもつながる

損益分岐点について把握することで、前述のように、マーケティング施策の意義や効果について、根拠のある数字をもって説明できるようになります。

そうすることで、説明の説得力も増しますし、スマートな印象を与えることができます。管理部門や経営層にも好印象です。

施策を実施しやすい状況を作り、自身の評価を上げるためにも、損益分岐点について把握することは大切だといえるでしょう。

損益分岐点を算出・活用する際の注意点

マーケターが損益分岐点を把握することにデメリットはありません。ただし、損益分岐点を算出してマーケティングに活用する際は、次の点に注意しましょう。

最新の正確なデータを基にする

損益分岐点の算出には最新の正確なデータを用いるように注意しましょう。また、いつ時点でのデータを基にしているのか、損益分岐点を活用する際にすぐにわかるようにしておくと良いでしょう。

施策実施前後での利益の増減も確認する

マーケティング施策の実施にあたっては、損益分岐点を超える、すなわち利益が出ることが大前提ですが、利益が出さえすれば良いというものでもありません。

施策を実施することで増えた利益が、施策を行うことでかかる費用より大きくなる必要があります。そうでないと、いくら全体としては損益分岐点を超えていても、施策実施前に比べて利益が減ってしまうことになります。

詳しくは後述の「損益分岐点の活用例」で解説します。

不明点は専門知識のある人に確認する

損益分岐点の算出には、財務や会計の知識が必要です。損益分岐点を効果的に活用するには、正しい数字を算出しなければなりません。

マーケターだけではわからない部分、合っているか不安な部分がある場合は、財務や会計の専門知識を持つ人に確認しましょう。

損益分岐点の活用例

マーケティング施策を考えるにあたり、損益分岐点を具体的にどのように活用したら良いのでしょうか。

ここではさまざまな状況に応用がきくようシンプルな例を紹介しますので、自社の状況に応じて活用してみてください。

施策の有無による損益分岐点の変化を確認する

マーケティング施策を検討する場合、まず、その施策を行わない場合と行う場合の損益分岐点を比較してみると良いでしょう

施策を実施する場合、そのための費用がかかるため、施策を実施しない場合よりも損益分岐点が上昇します

たとえば、1,000円の商品があり、商品1個あたりの変動費が500円、固定費が15万円だった場合を考えます。

損益分岐点は、「売上高ー費用(変動費+固定費)=0」となる地点です。損益分岐点販売数量をXとすると、「1,000X-(500X+15万)=0」と表せます。

この式を計算すると、「X=300」となるので、損益分岐点販売数量は300個、損益分岐点売上高は30万円になります。

売上高:1,000円×300個=300,000円

変動費:500円×300個=150,000円

固定費:150,000円

これに対して、宣伝広告費を5万円かけてマーケティング施策を行う場合を考えます。宣伝広告費は固定費に分類されるので、1,000円の商品、商品1個あたりの変動費が500円までは同じですが、固定費が20万円になります。

損益分岐点販売数量をXとすると、「1,000X-(500X+20万)=0」と表せます。この式を計算すると、「X=400」となり、損益分岐点販売数量は400個、損益分岐点売上高は40万円、に上昇することがわかります。

売上高:1,000円×400個=400,000円

変動費:500円×400個=200,000円

固定費:200,000円

つまり、何も施策を行わない場合は売上高30万円以上で利益が出ますが、施策を行う場合は売上高40万円以上にならないと利益が出ません。施策を実施するならば、最低でも売上高40万円以上になる必要があります。

施策の有無による利益の増加を確認する

すでに利益が出ている商品・サービスに対してマーケティング施策を実施する場合、損益分岐点を超えるだけでなく、施策実施前よりも営業利益を増加させる必要があります

営業利益は、限界利益から固定費を引いた金額です。

たとえば、1,000円の商品があり、1個あたりの変動費が500円、固定費が15万円で、売上高が40万円(販売数量が400個)だった場合、以下のような計算により5万円の営業利益が出ていることがわかります。

売上高:1,000円×400個=400,000円

変動費:500円×400個=20,000円

固定費:150,000円

営業利益:売上高ー費用(変動費+固定費)=50,000円

これに対してマーケティング施策を行う場合、営業利益が5万円以上になるような施策が必要です。

たとえば、施策実施に広告宣伝費として5万円がかかる場合、営業利益が5万以上になる販売数量をYとすると、営業利益「売上高ー費用(変動費+固定費)」は「1,000Y-(500Y+20万)」と表され、「1,000Y-(500Y+20万)>5万」となる必要があります。

これを計算すると、Y>500となり、売上高50万円(販売数量が500個)以上が必要なことがわかります。

売上高:1,000円×500個=500,000円

変動費:500円×500個=250,000円

固定費:200,000円

営業利益:売上高ー費用(変動費+固定費)=50,000円

状況に応じて、損益分岐点と合わせて確認しましょう。

利益から逆算する統合型マーケティングへ

損益分岐点を活用すると、利益から逆算してマーケティング施策を考えることができます

その際、施策単体で成果をあげることはもちろん重要ですが、マーケティング戦略のなかでその施策がどういう位置づけなのかを考えることも重要です。

そうすることで、施策と施策が連動し、相乗効果を持ち、個々の施策だけでなく全体として利益が伸びるようになります。

マーケティングメディアLIFTを運営するゴンドラでは、クライアントのビジネス課題全体を俯瞰しながら、課題解決に必要な各領域で専門性を発揮する、「統合型支援」を強みとしています。制作・開発・CRM/ファンマーケティングまで、部門を横断して一気通貫で支援が可能です。

また、支援にあたってはクライアントそれぞれの課題に寄り添い、長期的な視点と関係性で支援を行う「カスタマーエンゲージメント」を大切にしています。

売上はあるのに利益が上がらない、施策を行ってもなかなか利益が出ないなど、課題に感じていることをぜひお気軽にご相談ください。

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WRITING 執筆

加藤 淳平

加藤 淳平

経理・財務分野において、事業会社と税理士法人での実務経験を持つプロフェッショナル。
事業会社では経理・財務・経営企画分野で、決算業務、予実管理、予算策定、組織再編、J-SOX対応まで幅広く従事。税理士法人では財務・税務支援業務に加え、財務DDや株価算定業務を担当。
日商簿記1級、全経簿記上級の資格を有し、税理士試験(簿記論)合格。理論と実務の両面から、企業の財務・経理課題に対する深い知見を有する。

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