スタートアップとは、イノベーションを起こすような新しいビジネスモデルや技術を持つ存在。
それを世に広めるためには、立ち上げの初期段階から成長の先を見据えたマーケティング戦略を立てることが重要です。
本記事では、スタートアップのマーケティング戦略をフェーズごとに解説します。
先輩、何を読んでるんですか?
今注目のスタートアップ企業を特集した記事だよ。興味深いマーケティング戦略をとっている企業もあって勉強になるよ。
僕も後で読んでみたいです!ところで、スタートアップならではのマーケティング戦略ってあるんですか?
INDEX
スタートアップは新しいビジネスモデル・技術を持つ
はじめに、そもそも「スタートアップ」とはどのような存在なのかを確認しておきましょう。スタートアップの定義は、定義する人や資料によって幅がありますが、「イノベーションを起こすような新しいビジネスモデルや技術がある」という点が重要な特徴のひとつといえます。
わかりやすい資料として、平成21年2月に経済産業省が発表した「平成30年度 地方創生に向けたスタートアップエコシステム整備促進に関する調査事業報告書」を参考にすると、「スタートアップ3つの特徴」として以下があげられています。
- 成長スピードが速い
- ビジネスに斬新性があり、イノベーション、社会貢献を意識している
- 出口戦略(イグジット)を検討している
1の成長スピードも、スタートアップの特徴的な点です。2は、新しいビジネスモデルや技術に該当します。3の「出口戦略(イグジット)」は、株式上場や事業売却などが該当します。
既存のビジネスモデルを活用するベンチャーとの違い
スタートアップとよく一緒に使われる言葉が「ベンチャー」です。
ベンチャーの定義もスタートアップと同様に幅がありますが、どちらかというと既存のビジネスモデルや技術について独自の活用をする場合に、ベンチャーと呼ばれることが多い印象です。
また、大企業ではなく中小規模の企業であることが多いようです。前述の調査事業報告書では「比較的歴史が浅い企業について使われる場面が多い」とされています。
ただし、スタートアップとベンチャーという言葉があまり区別されず使われる場合や、ベンチャーのなかにスタートアップを含む使われ方をする場合もあります。
スタートアップとかベンチャーってなんとなく使ってましたけど、定義を確かめるとしっかりと特徴が見えてきますね。
そうだね。スタートアップの成功のためには、とくに初期のマーケティング戦略に気をつけてほしいな。
スタートアップ初期のマーケティング戦略のポイント
体力のある企業が新たな事業を始める場合は成長にある程度の時間をかけることもできますが、スタートアップの多くは限られた資金とリソースのなかで事業を始めます。
そのため、前述の「スタートアップ3つの特徴」でもあげた成長スピードの速さはスタートアップの特徴であり、スタートアップが成功するために必要な要素ともいえます。
とくに事業の初期段階において、いかに効率的にユーザーを獲得するかが、その後の成長スピードに大きく影響します。スタートアップ初期のマーケティング戦略のポイントとしては、以下があげられます。
- 潜在顧客にニーズに気づいてもらう
- スモールスタートでPDCAを素早く回す
- Webマーケティング施策を活用する
これらのポイントを押さえたマーケティング戦略が立てられるよう、体制を整えましょう。
潜在顧客にニーズに気づいてもらう
スタートアップの事業は、世の中にイノベーションを起こすようなビジネスモデルや技術を提供します。そのビジネスモデルや技術がもたらすメリットは、世の中の多くの人にまだ理解されておらず、ニーズが顕在化していない状況です。
そのような状況では、まず、新しいビジネスモデルや技術によるメリットを認知してもらい、潜在的にメリットを求めている顧客を見つけて、自身のニーズに気づいてもらう必要があります。
ビジネスモデルや技術を提供する側は、その良さについてすでによく理解しているので、相手もすぐに理解してくれる前提で製品・サービスの認知拡大を進めたくなるかもしれません。
しかし、今まで当たり前だった認識や習慣を変えるのは簡単なことではありません。革新的なビジネスモデルや技術であるほど、まずは潜在顧客のニーズの掘り起こしを丁寧に行う必要があります。
スモールスタートでPDCAを素早く回す
スタートアップ初期の限られた資金とリソースのなかで成功への道筋を効率的に見つけるためには、まずは失敗しても影響の少ない規模で多くの試みを行い、多くの改善を重ねることが重要です。
最初から大々的に施策を行うのではなく、まずは社内や社外の関係者によるテスト、製品・サービスと親和性の高いであろうユーザーに絞ってβ版のリリースを行うなど、小さな規模から始め、その結果を基に改善を重ねて少しずつ対象を広げていきましょう。
Webマーケティング施策を活用する
Webマーケティングは、施策の対象となるユーザーのセグメントをこまかく調整でき、施策の効果について直接的にデータを収集・分析して検証を行いやすい領域です。また、無料で始められる施策や、低予算から始めて予算調整を行いやすい施策が多くあります。
そういった点から、スタートアップのマーケティング戦略では、まずはWebマーケティング施策の活用がおすすめです。
ごく基本的なWebマーケティング施策をあげると、会社や製品・サービスを紹介するWebサイトがあることは、自社を知ってもらうきっかけとしてとても重要ですし、SNSアカウントの運用も、ユーザーとの接点を増やすために効果的です。
そこから認知を広げるために、SEO対策やWeb広告も活用できます。WebサイトやSNSアカウントから得られるデータを一元管理して活用するために、ツールを導入するのも良いでしょう。
なるほど~。初期はこのポイントを押さえるとして、その後はどうなんでしょう?
一般的に、スタートアップの成長フェーズは4つに分けられていて、各フェーズごとにマーケティング戦略のポイントがあるよ。
初期から成長フェーズごとの課題とマーケティング戦略
スタートアップには、一般的に以下の成長フェーズがあるとされます。シード期からレイター期までの全体の流れを踏まえた上で、スムーズに成長が進むよう各段階での戦略を立てていきましょう。
- シード期
- アーリー期
- ミドル期/グロース期
- レイター期
ここでは、成長フェーズごとに起こりやすい課題と、それに対するマーケティング戦略を解説します。
シード期
「シード」とは「seed=種」のことで、事業が芽吹く前段階を表しています。シード期は、製品・サービスの構想を固め、市場にどのように展開していくのか計画を立てる、創業前後の段階です。
シード期の課題とマーケティング戦略
シード期には、市場のニーズとそのなかでの自社の立ち位置を正確に把握する必要があります。そのために、以下のような分析を活用しましょう。
- PEST分析:Politics(政治)/Economy(経済)/Society(社会)/Technology(技術)の4つの外的要因から業界を分析するフレームワーク。
- 3C分析:顧客や市場(Consumer)/競合(Competitor)/自社(Company)の3つの要素から自社の経営環境を分析するフレームワーク。
- SWOT分析:Strength(強み)/Weakness(弱み)/Opportunity(機会)/Treath(脅威)の4つの要素から自社の内部・外部環境を整理するフレームワーク。
マーケティングフレームワークについては、以下の記事も参考になります。
ビジネスフレームワークまとめ!顧客理解や目標設定など目的別にご紹介
フレームワークとは、ビジネスやマーケティングに必要な情報を整理したり、分析したりするための枠組みです。 フレームワークは無数にあるので、何を...
このような分析に基づいて、製品・サービスの構想を固め、市場にどのように展開していくかの計画を立てます。正式なリリース前にプロトタイプをテストユーザーに提供して反応を見ることもあります。
製品・サービスの開発と合わせて、どのようなユーザーにニーズがあるのかターゲットも明確にします。具体的なマーケティング施策の実施にあたっては、ユーザーの属性に加え、趣味嗜好や価値観、生活スタイルなど詳細な人物像を仮定する「ペルソナ設定」を行うと良いでしょう。
ペルソナ設定については、以下の記事も参考になります。
ペルソナとは?マーケティングで重要な理由と作り方、設定例を紹介
ペルソナとは、企業が商品やサービスを提供する架空のユーザー像です。 本記事では、マーケティングの成功に欠かせないペルソナ設定について解説しま...
製品・サービスの正式リリース時には、興味を持ってくれたユーザーの受け皿となるWebサイトやLP、SNSアカウントなど、ターゲットとするユーザーに対応したものを準備しておきます。
アーリー期
アーリー期は、製品・サービスを正式にリリースして、新規顧客獲得に注力していく段階です。ユーザーの反応を見ながら、ターゲットとするユーザーに効果的と思われるマーケティング施策を実施、改善していきましょう。
アーリー期の課題とマーケティング戦略
アーリー期にどれだけ新規顧客を獲得できるかが、その後の成長スピードに大きく影響します。
そのためのマーケティング施策を考えるにあたり、ペルソナが製品・サービスを認知してから購入に至るまでの思考・感情・行動の変化を想定する、カスタマージャーニーマップの作成が役立ちます。
カスタマージャーニーマップの作成については、以下の記事も参考にしてください。
カスタマージャーニーマップとは?作り方と目的を事例と解説【テンプレート付き】
カスタマージャーニーマップは、お客さまが商品を購入するまでにたどる体験の旅を図にまとめたものです。 企業にとっては、まさに施策を決定するため...
WebサイトやSNSアカウントを訪問したユーザー、会員登録や資料請求、問い合わせなどのアクションにつながったユーザーのデータを収集・分析して、継続的なコミュニケーションを取ることで購入につなげることができます。
アーリー期は、製品・サービスの開発にかかったコストがまだ回収できない段階でもあります。資金調達を行いつつ、予算を抑えやすく調整もしやすいWebマーケティング施策を活用しましょう。また、施策のPDCAを回せるよう社内外の体制を整えていきます。
ミドル期/グロース期
ミドル期(またはグロース期)は、安定して新規顧客を獲得できるようになるとともに、継続して製品・サービスを利用してくれる一定の既存顧客がついてくる段階です。新規顧客をリピートにつなげるとともに、既存顧客と良好な関係を築き、クロスセルやアップセルも促していきます。
ミドル期/グロース期の課題とマーケティング戦略
ミドル期/グロース期には、事業を収益化して、売上を伸ばしていく必要があります。
アーリー期に行ってきた新規顧客獲得の施策から、費用対効果の高いものを見定めていきます。費用対効果を表す指標としては、ROIがあります。
また、既存顧客のデータを一元管理して活用しながら、良好な関係を育成していくCRMにも注力します。既存顧客に製品・サービスを継続して利用してもらいながら、上位の製品・サービスへの移行やセット・オプションなどを利用してもらうことで、売上を大きく伸ばせる可能性があります。
社内・社外ともに事業に関わる人数が増えてくる段階なので、必要な情報が必要な人に共有されるよう気をつけましょう。また、バックオフィスの体制を整えることも必要になってきます。
レイター期
レイター期は、事業が軌道に乗り、安定して収益を出せるようになる段階です。資金調達も容易になるので、新たなビジネスモデルの展開や事業拡大、新たな市場の開拓などが可能になります。また、出口戦略に向けた準備を始めます。
レイター期の課題とマーケティング戦略
レイター期には、軌道に乗っている事業に対して、新たな展開のための大きな決断が求められます。それに伴って動くお金も大きくなります。
そこで問題なく動けるように、マーケティング戦略に関してはデータを一元管理できるようにしておくことをおすすめします。また、必要な人材の確保やバックオフィスの体制を整えておきましょう。
自社が今どのフェーズにあるか把握しながらマーケティング戦略を立てることが大事だね。
実際にスタートアップにはどんな企業が当てはまるんでしょう?
じゃあ、スタートアップとして成功している企業の事例を見てみよう。
スタートアップの参考になる成功事例
スタートアップとはどのような企業なのか、具体的なイメージをつかむのに役立つ代表的な成功事例を紹介します。
株式会社SmartHR
株式会社SmartHRは、2013年設立、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を提供している会社です。
日本においてクラウド人事労務ソフトの競合が少ない時期に製品をリリースしたことや、製品を提供するなかで得られたデータから、製品のメリットがもっとも活きる業界に焦点を当てたテレビCMなどの大きな施策を実施したことで、新規顧客獲得を一気に進めました。
人事労務という利用企業にとって重要な情報を扱う製品であり、利用に問題がなければなかなか乗り換えることがない存在であるため、顧客の継続した利用にもつながっています。
株式会社ヤプリ
株式会社ヤプリは、2013年設立、アプリ開発・運用・分析をノーコードで実現するアプリプラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」を提供している会社です。
製品リリース後の試行錯誤のなかで製品が刺さる業界や企業の規模感を見出し、顧客のニーズに応じた機能開発やアプローチ方法に注力したことで、新規顧客獲得が進みました。
Webマーケティングだけでなく展示会などのオフラインのマーケティングも活用して、そこで得られたデータを新規顧客獲得に効率的につなげています。
Spiber株式会社
Spiber株式会社は、2007年設立、都市部ではなく山形県鶴岡市から始まった会社です。微生物発酵プロセスによりつくられるタンパク質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™)」を開発、量産化に成功しました。
Brewed Protein™は生分解性があり、環境負荷低減やアップサイクルも期待できる素材として、とくにアパレル業界において注目されています。実際に複数の有名アパレルブランドや化粧品ブランドでも採用され、環境負荷低減の効果を発揮しています。
アパレルや化粧品業界において、単に製品が売れれば良いという段階から、製品を提供することによる社会や環境への影響も配慮する段階になっているところに、Brewed Protein™の特徴が響いたといえます。
潜在的なニーズがあり、かつ大きな影響力を持つ企業と協力することにより、新しい技術を一気に世に出すことができた事例といえます。
Zoom Video Communications, Inc.
Zoom Video Communications, Inc.(Zoomビデオコミュニケーションズ)は、2011年設立、ビデオ会議サービス「Zoom」を提供する会社です。本社はアメリカにあります。
Zoomは、日本でもビデオ会議やウェビナーの際に使う主流のツールとなっています。このツールがここまで定着したのは在宅勤務やオンラインイベントの増加が大きいでしょう。
とはいえ、Zoomの他にもさまざまなビデオ会議サービスがあります。そのなかでZoomは、アプリやWebブラウザで簡単に無料で利用開始でき、Zoomを使ったことがない相手も招待しやすい点などが普及を促進したと考えられます。
また、ユーザーのニーズに応じて機能の改善や追加がスピーディーに行われています。エンドユーザーをしっかりと確保しながら、ビジネスに役立つさまざまな機能を利用できる有料プランを拡充させることで、無料プランから上位プランへの移行も促進しています。
コロナ禍は予期できないものだったとはいえ、世の中の大きな変化にうまく対応した事例といえます。
Airbnb, Inc.
Airbnb, Inc.(エアビーアンドビー)は、2008年設立、民泊を仲介するサービスを世界規模で提供している会社です。拠点はアメリカにあります。
空いている部屋や物件をユーザー同士で貸し借りするという新しいプラットフォームの仕組みを広めるために、Airnbnbでは、まず部屋や物件を貸す側のユーザーの獲得に注力しました。
初期のユーザー獲得にあたっては、インターネット上にすでにある掲示板において、部屋の貸し借りについての情報をやり取りしているユーザーにアプローチを行なっています。
また、借り手側のユーザー獲得にあたっては、部屋や物件の写真のクオリティを上げるために、プロのカメラマンを起用するなどの工夫を行なっています。
なお、Airbnbはコロナ禍において打撃を受け、大規模なスタッフの一時解雇も実施しましたが、その際のスタッフへの説明やフォローが非常に手厚く、Airbnbの組織の在り方を示すエピソードとしても知られています。
どの企業も、ニーズがあるところを見つけること、それを逃さないことが上手な印象です!
そうだね。逆に、スタートアップが陥りがちな失敗もあるので、そうならないためのポイントも紹介しておくよ。
スタートアップが陥りがちな失敗を防ぎ、成功するポイント
最後に、スタートアップがマーケティング戦略において陥りがちな失敗を防ぎ、成功するためのポイントを紹介します。
- 市場ニーズと自社の分析を徹底
- 必要な費用の算出と資金調達の計画
- 成長フェーズに応じた人材採用・組織づくり
スタートアップのマーケティング戦略を立てるときは、これらのポイントを押さえるようにしましょう。
市場ニーズと自社の分析を徹底
スタートアップのマーケティング戦略では、ビジネスモデル・技術についての市場ニーズと、それを製品・サービスとして提供したときに継続的に利益を生めるよう自社がとるべきポジショニングについて、分析を徹底することが重要です。
どんなに革新的なビジネスモデル・技術であっても、市場に受け入れられる形で提案できなければ利益を生むことはできません。また、ニーズがあっても一時的なものに終わってしまうと、レイター期に至るまでの成長を遂げることはできません。
まずはシード期において徹底した分析を行うとともに、各成長段階で顧客から得られるデータを基に常にPDCAを回していくことも重要です。
必要な費用の算出と資金調達の計画
マーケティング戦略を立てるにあたり、各成長段階で行う施策とそれに必要な費用について、おおよその目安を出しておきます。
とくに資金調達に苦労しがちなのが、それまでのコストをまだ回収できていない状態で、新たな施策のための費用が必要になるアーリー期です。公的融資や補助金で活用できるものがないか事前に調べておきましょう。ミドル期・グロース期になると銀行融資も受けやすくなります。
成長フェーズに応じた人材採用・組織づくり
成長フェーズが進むにつれ、必要な人材は増えていきます。マーケティング戦略にしても、マーケティング部門だけで完結するものではなく、他部門や社外のパートナーとの連携が必要になっていきます。
人材不足でやりたいマーケティング施策に手が回らないとならないように、計画的に人材を採用して、スムーズな連携ができる組織づくりを行いましょう。人が増えれば、バックオフィスの整備も重要です。
マーケティングや資金調達に関して自社だけで対応できないことがあれば、必要に応じて専門家の手を借りることも検討しましょう。
日頃見かけるCMや製品・サービスのなかにも、スタートアップで成功している会社があるから、調べてみるのも面白いかもね。
たしかに!マーケター視点で見ると、また違った発見がありそうです!
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