ホリスティック・マーケティングとは?市場の変化と4つの要素、3つのテーマを例とともに解説

ホリスティック・マーケティングとは?市場の変化と4つの要素、3つのテーマを例とともに解説

ホリスティック・マーケティングとは、ホリスティック(総体的)な視点でマーケティング活動に関係する人々や社会への影響を捉え、それらを統合してマーケティング活動を行う考え方。

本記事では、コトラーの著書をベースに、ホリスティック・マーケティングの構成要素や、その効果と注意点を解説します。

ビギニャー

先輩、最近気づいたんですけど、マーケティングで何かしたいときに、マーケティング部門だけじゃできないことも結構ありますね。

シニヤン

良いことに気づいたね。他部門や社外の人たちにも協力してもらうためには、「ホリスティック・マーケティング」の考え方を知ると良いかもしれないね。

ビギニャー

ホリスティック……?

ホリスティック・マーケティングとは

ホリスティック・マーケティングとは、アメリカの経済学者フィリップ・コトラーが提唱しているマーケティングに関する考え方。「ホリスティック(Holistic)」とは「全体的な」という意味です。

日本語訳が出版されているコトラーの最新の著書(2023年12月時点)『コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント 原書16版』*1(以下『マーケティング・マネジメント』)では、「ホリスティック(総体的)・マーケティング」と表現されています。

同書において、ホリスティック・マーケティングは「急速に進化する市場での成功に不可欠なアプローチ」(P9)「マーケティング活動の範囲と複雑性を踏まえた上で、戦略および戦術を管理するための統合されたアプローチを提案する」(P18)と説明されています。

詳しくは後述しますが、ホリスティック・マーケティングとは、総体的な視点でマーケティング活動に関係するあらゆる人々や社会への影響を捉え、それらを統合して行うマーケティングの在り方を指します。

単にマーケティングのフレームワークや手法を指すというより、マーケティングに関する大きな考え方といえるでしょう。

*1:フィリップ・コトラー/ケビン・レーン・ケラー/アレクサンダー・チェルネフ 著・恩藏 直人 監訳・バベルブレス株式会社 翻訳協力・丸善出版(2022年11月)

「近代マーケティングの父」フィリップ・コトラー

フィリップ・コトラーは、「近代マーケティングの父」「マーケティングの神様」などと称される経済学者です。今日当たり前に使われているマーケティングという概念を生み出し、マーケティング戦略において活用される主要なフレームワークをいくつも生み出しました。

たとえば、「7P分析」や「STP分析」、「3iモデル」などはコトラーが提唱したものです。また、現代に至るまでのマーケティングの変遷を「マーケティング1.0~5.0」という5つの段階に分けて説明しています。

参考記事:コトラーの戦略・フレームワーク解説!マーケティング5.0までの変遷、STP分析や4C分析、5A理論などがわかる

なお、ホリスティック・マーケティングは、コトラーの別の著書である『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』*2や『新・マーケティング原論』*3などでも説明されていますが、本記事では最新の『マーケティング・マネジメント』の内容を中心に紹介します。

*2:フィリップ・コトラー/ケビン・レーン・ケラー 著・恩藏 直人 監修・月谷 真紀 訳・丸善出版(2008年3月)

*3:Philip Kotler/Dipak C. Jain/Suvit Maesincee 著・有賀 裕子 翻訳・原著・翔泳社(2002年7月)

ビギニャー

コトラーが提唱したことって、マーケティングに関わっているといろんなところで出てきますね。

シニヤン

そうなんだよ。しかもコトラーのフレームワークや考え方は、市場の変化に合わせて常にアップデートされていっているんだ。

ホリスティック・マーケティングが注目される理由は市場の変化

ホリスティック・マーケティングが注目される理由として、『マーケティング・マネジメント』であげられている、「急速に変化する市場での成功に不可欠」な点が大きいでしょう。

では、市場はどのように変化しているのでしょうか。

同書では「新たな市場の現実は、3つの主要なカテゴリーに分類できる」とされています。それは「市場の力」「市場の成果」「ホリスティック・マーケティングの出現」です。

「市場の力」の相互作用から「市場の成果」が生じ、そのなかで成功するのに必要なアプローチが「ホリスティック・マーケティング」である、という考え方です。

4つの主要な「市場の力」

『マーケティング・マネジメント』では、今日のビジネス環境は、以下の4つの主要な力による影響を大きく受けているとされています。

  • テクノロジー
  • グローバリゼーション
  • 物理的環境
  • 社会的責任

「テクノロジー」と「グローバリゼーション」は、イメージしやすいと思います。

たとえばインターネットやスマートフォン、機械学習やAIなどのテクノロジーの発展は、新しいビジネスモデルを生み出し、マーケティング活動の在り方も大きく変えています。

また、グローバリゼーションにより、商品・サービスの製造・開発拠点が海外にある、世界各国に顧客がいるといった状況も当たり前のものとなっています。

「物理的環境」としては、注目すべき変化として「気候変動」と「地球規模で見られる健康状態の変化」があげられています。これらは、近年相次ぐ異常気象や、2020年以降のコロナ禍の影響を考えると分かりやすいでしょう。

「社会的責任」としては、「世界中の企業が企業としての社会的責任に重きを置くようになっている」とされます。

マーケティング活動においてただ自社の利益を追求するのではなく、「倫理的、環境的、法的、社会的な意味合いを考慮」することが求められるようになっているのです。そしてそのことが、競合との差別化になり、消費者に選ばれる理由にもなり得ます。

3つの重要な「市場の成果」

『マーケティング・マネジメント』では続けて、前述の「市場の力」による「市場の成果」として、消費者と企業の双方に新たなケイパビリティがもたらされ、同時に激しい市場競争が助長されるとしています。

「ケイパビリティ」とは「才能」「能力」といった意味です。

消費者の新たなケイパビリティ

消費者は、インターネットやモバイル端末、ソーシャルメディアを活用することで、さまざまな情報を簡単に調べ、発信し、共有できるようになりました。

それにより、ただ一方的に企業から情報を受け取るだけでなく、消費者同士や企業と双方向のコミュニケーションを取ることが可能になっています。製品・サービスの購買や、逆に企業からの販促を拒否することも簡単になっています。

また、シェアリングエコノミーの広がりにより、消費者が同時に生産者になるという状況も生まれています。

企業の新たなケイパビリティ

企業は、インターネットを介して世界中に情報発信や販売ができるようになり、さらにそこから得られる膨大な情報をマーケティングに活用できるようになりました。

ソーシャルメディアやモバイル端末を活用することで、マーケティングの効率化や、社内外の意思疎通向上にもつながります。

また、新たなテクノロジーやそこで生まれたサービスを活用することで、コスト削減が可能となり、中小規模の企業のビジネスの機会が広がっています。

市場競争が助長される「競争環境における主な変化」として、以下があげられています。

新たな競争環境

  • 規制緩和
  • 民営化
  • 小売業の変革
  • ディスインターメディエーション(脱仲介業者化)
  • プライベート・ブランド
  • メガブランド

「規制緩和」と「民営化」は文字通りの変化です。

「小売業の変革」では、店舗ベースの小売業者が通信販売やダイレクト広告、ECとの競争に直面する一方、Amazonなどの顧客中心型の企業は「経験」の売り込みに注力していることが紹介されています。

「ディスインターメディエーション(脱仲介業者化)」は、Amazonなどネットビジネスのベンチャー企業が実現しているものです。一方従来型の企業は、自分たちの提供物にオンラインサービスを付加する「リインターメディエーション(再仲介)」に乗り出しています。

「プライベート・ブランド」は、製造業者ブランドに苦境をもたらしていると指摘されています。「メガブランド」には、「関連製品のカテゴリーにまで進出」して、「2つ以上の業界が重なり合う領域で新しい機会を入手している」という変化があるとされています。

ビギニャー

たしかに10年前と今を比較したら、市場の状況ってきっと全然違いますよね。

シニヤン

マーケティングの考え方もそれに対応していく必要があるよね。そこで「ホリスティック・マーケティング」という考え方が役立つんだよ。

ホリスティック・マーケティングを構成する4つの要素

前述のような変化をする市場において成功するために必要なアプローチが、「ホリスティック・マーケティング」です。ホリスティック・マーケティングは、以下4つの要素で構成されます。

  • リレーションシップ・マーケティング
  • 統合型マーケティング
  • インターナル・マーケティング
  • パフォーマンス・マーケティング

以下に各要素について詳しく見ていきます。なお、「パフォーマンス・マーケティング」は、『マーケティング・マネジメント』以前のコトラーの著書では「社会的責任マーケティング」と表現されることもあります。

リレーションシップ・マーケティング

「リレーションシップ(relationship)」とは「関係」のこと。

『マーケティング・マネジメント』では、「リレーションシップ・マーケティングは、主要な関係者との相互に満足のいく長期的な関係を構築し、ビジネスを獲得し維持することを目指している」とされています。

そして、「リレーションシップ・マーケティングを構成する4つの主要な関係者」として、「顧客」「従業員」「マーケティング・パートナー(チャネル、供給業者、流通業者、ディーラー、代理店)」「金融界の人々(株主、投資家、アナリスト)」があげられています。

マーケティングというとまずは顧客に目線がいきがちですが、リレーションシップ・マーケティングでは、顧客以外にも企業のビジネスに関わるあらゆる人々と、長期的に良好な関係性を築くことを重視します。

そういった企業とそれを支える利害関係者との効果的なネットワークを「マーケティング・ネットワーク」と呼び、これがリレーション・マーケティングの成果とされます。

『マーケティング・マネジメント』では、リレーション・マーケティングの例として、IBMの製品・サービス開発と顧客との関係が紹介されています。

統合型マーケティング

統合型マーケティングは、一般的なマーケティングでイメージする活動に近い部分です。ただし、個々のマーケティング活動が全体として統合されている必要があります。

『マーケティング・マネジメント』では、「あらゆるマーケティング活動とマーケティング・プログラムを調整し、消費者に向けて一環した価値とメッセージを創出、伝達、提供するよう方向づける」とされています。

たとえば、マスメディアやWebサイト、SNSなど複数の媒体で顧客とコミュニケーションを取る場合、各媒体で成果を出すことはもちろん、それぞれが相乗効果をもたらすことを意識します。また、そのなかで一貫したブランド・メッセージを届けるようにします。

『マーケティング・マネジメント』では、統合型マーケティングの例として、アイスランドの火山噴火とそこからの観光業が回復するまでの取り組みが紹介されています。

インターナル・マーケティング

「インターナル(internal)」とは「内部の」という意味。インターナル・マーケティングは、マーケティング活動の効果を発揮するために人材育成や部門同士の連携を強める、社内向けの活動です。

『マーケティング・マネジメント』では、「インターナル・マーケティングは、顧客に十分にサービスを提供したいと考える有能な従業員を採用し、トレーニングし、また意欲を与えることが任務」とされます。

また、「経営幹部との垂直方向の調整と、他部門との水平方向の調整が求められる」としています。

マーケティング活動は、マーケティング部門だけでは完結できません。製品・サービスの開発部門や営業部門、カスタマーサポート部門など、会社全体で取り組むことが、成果を最大化することにつながります。

『マーケティング・マネジメント』では、インターナル・マーケティングの例として、パタゴニアによる、環境問題への意識と株主利益の最大化を結びつける製品開発の取り組みを紹介しています。

パフォーマンス・マーケティング

パフォーマンス・マーケティングでは、マーケティングによる社会への影響を考える必要があります。

『マーケティング・マネジメント』では、「マーケティング活動やマーケティング・プログラムを通じて得られるビジネスや社会への経済的および非経済的な利益について理解する必要がある」とされています。

また、マーケターは、マーケティング活動に関するさまざまな指標を確認するとともに、「法的、倫理的、社会的、環境的影響」についても検討することを求められます。

マーケティング活動において法律を遵守することはもちろんですが、倫理的に受け入れられない、社会や環境に悪影響をもたらすような製品や売り方は、消費者から受け入れられにくくなっています。

ビギニャー

言葉だけ聞くと難しそうですけど、各要素の中身を見ると、たしかにそういうことって必要だなあと思います。

シニヤン

「ホリスティック・マーケティング」についての説明では、「4つの要素」と合わせて「3つのテーマ」が出てくることもあるので、紹介しておくね。

ホリスティック・マーケティングにおける3つのテーマ

『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』では、ホリスティック・マーケティングにおいて、以下3つのテーマに沿ってマーケティング活動を設計することが説明されています。

  • 価値追及
  • 価値創造
  • 価値提供

『マーケティング・マネジメント』ではまた違う構成なのですが、ホリスティック・マーケティングの説明でよく出てくる内容なので、この3つのテーマについても参考までに簡単に紹介します。

なお、『マーケティング・マネジメント』では、「第Ⅰ部 マーケティング・マネジメントの基礎」でホリスティック・マーケティングの概念について説明があり、主要なテーマについて同書全体を通して詳しく見ていくとされています。

そのうえで、「価値」については「第Ⅳ部 価値の設計」「第Ⅴ部 価値の伝達」「第Ⅵ部 価値の提供」で詳細な説明があるといった構成になっています。

価値追求

価値追求とは、顧客に提供する新しい価値を考えることです。そのために、顧客や市場、自社の経営資源、パートナーの変化をつねに分析して、今まさに提供すべきものを見出す必要があります。

価値創造

価値創造とは、価値を効率的に創造する手法を考えることです。そのために重要なのが、「コアコンピタンス」です。コアコンピタンスとは「企業の中核能力」と訳され、競合他社が真似のできない、その企業ならではの圧倒的な強みを表します。

価値提供

価値提供とは、経営資源を最大限活用した効率的な価値提供の方法を考えることです。既存顧客のデータを活用して関係性向上を行うCRMや、社外のパートナーとの連携強化などが考えられます。

ビギニャー

ホリスティック・マーケティングの意味がだんだんつかめてきた気がします!

シニヤン

じゃあ、ここまでの説明を踏まえて、ホリスティック・マーケティングに取り組むことで、具体的にどんな良いことがあるのかも知っておこう。

ホリスティック・マーケティングにより得られるもの

ホリスティック・マーケティングの考え方に基づいてマーケティング活動を行うことで、以下のようなメリットがあります。

  • 時代の変化に対応できる
  • マーケティング部署の領域外の改善もできる
  • 中長期的な会社の成長、ブランディングにつながる

従来のマーケティング活動だけでは対応できない課題が増えてきたとき、ホリスティック・マーケティングの考え方を知ることで新しい展開ができるかもしれません。

時代の変化に対応できる

『マーケティング・マネジメント』によると、ホリスティック・マーケティングは「急速に進化する市場での成功に不可欠なアプローチ」です。

進化する市場のなかで、従来のマーケティングの領域だけでは対応できなくなってきた部分をカバーする考え方が、ホリスティック・マーケティングといえます。

マーケティング部署の領域外の改善もできる

ホリスティック・マーケティングでは、マーケティング部門だけでなく、企業の取引に関わるすべての関係者や社会への影響も視野に入れた活動を行います。

企業全体でホリスティック・マーケティングに取り組むことで、マーケティング部門の領域外にあり、マーケティング部門だけでは対応できなかった課題の改善につながります。

中長期的な会社の成長、ブランディングにつながる

ホリスティック・マーケティングは、マーケティングのフレームワークや手法というより、企業のマーケティング活動の在り方そのものといえます。

ホリスティック・マーケティングの考え方を基にマーケティング活動を行うことで、中長期的にマーケティング活動が変化していき、会社の成長につながります。

また、ホリスティック・マーケティングは、マーケティング部門だけでなく社内外のあらゆる関係者と良好な関係を築き、会社全体で一貫したメッセージを発信することになるため、強いブランディングにつながります。

ビギニャー

ホリスティック・マーケティングって、本当に会社全体に関わってくることなんですね~。

シニヤン

そうだね。だからこそ注意すべき点もあるから、一緒に押さえておこう。

ホリスティック・マーケティングの注意点

ホリスティック・マーケティングの考え方を取り入れる場合、次の点に注意しましょう。

  • マーケティング部署だけでできることではない
  • データの管理・分析が複雑
  • 短期間で影響を判断できるものではない

これらの点を踏まえた社内外の体制を整えることをおすすめします。

マーケティング部門だけでできることではない

ホリスティック・マーケティングは、社内のあらゆる部門で共有すべき考え方であり、社内だけでなく社外の関係者との関係性にも影響します。

そのため、マーケティング部門だけでなく、全社で取り組んでいく必要があります。各部門のトップと連携して、現場の従業員や外部パートナーなどとも考え方を共有できるように進めましょう。

データの管理・分析が複雑

ホリスティック・マーケティングに取り組むためには、社内外のさまざまなデータを見る必要があります。

各部門で管理しているデータ、利用しているツールやシステムを連携して、できるだけデータを効率的に一元管理できるようにしましょう。

短期間で影響を判断できるものではない

ホリスティック・マーケティングは、すぐにわかりやすい効果が出るものではありません。まずは4つの要素を踏まえて、自社のマーケティング活動を見直してみましょう。

各要素で取り組めること、改善できることを進めながら、全体としての変化を中長期的に追うことをおすすめします。

シニヤン

ホリスティック・マーケティングについてさらに詳しく知りたい場合は、コトラーの著書を読んでみると良いよ。

ビギニャー

そうですね、興味が出てきました!もっと勉強してみます。

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