地方企業が行うマーケティングは、「エリアマーケティング」と「地域マーケティング」の2種類に分けられ、効果や実施手順が大きく異なります。
この記事では、地方企業がマーケティングを行うときの戦略立案や具体的な事例を紹介します。地方企業による積極的なマーケティング活動は、利益の拡大だけではなく、地方創生の効果も得られる点がメリットです。
「地元企業としてより成長を遂げたい」「地域に貢献したい」とお考えの企業は、ぜひ戦略のヒントにしてみてください。
地方企業のクライアントと現地で打合せをするから、明日から出張に行ってくるね。その間はよろしくね、ビギニャー君。
はぁい!気をつけていってらっしゃい!最近、地方企業のお客さんが増えてきましたね~!地域密着型の企業だと、積極的にマーケティングをしなくても馴染みの顧客で売上が安定しそうですけど……。
地方企業であっても、マーケティングに力を入れる必要性は高いんだよ。ちょうどいい機会だし、今日は地方企業におけるマーケティングについて学んでみようか。
地方企業とマーケティングの関係
少子高齢化や人口流出により、集客・売上に課題を抱えている地方企業は少なくありません。また、今後さらなる発展を遂げるために売上拡大を目指している地方企業もあることでしょう。
各企業が抱えている課題や目標はさまざまですが、今後地方企業が生き残ったり大手企業に負けない競争力をつけたりするためには、マーケティングの実施が不可欠です。
とはいえ、地方企業のなかには「マーケティングのノウハウがない」「どのような施策を実施すべきかわからない」というところは珍しくありません。まずは、地方企業におけるマーケティングの基礎知識を身につけることが大切です。
- 地方企業が取り組むべきマーケティング施策
- 地方企業でマーケティングが重要な理由
- 地方企業におけるマーケティングの課題
以下では、上記3項目についてみていきましょう。
地方企業が取り組むべきマーケティング施策
地方企業が取り組むべきマーケティング施策として、次の3つが挙げられます。
- Webマーケティング
- エリアマーケティング
- 地域マーケティング
それぞれどのような施策なのか、詳細を説明します。
Webマーケティング
Webマーケティングとは、WebサイトやSNSなどの媒体を活用する、インターネット上で行うマーケティング活動全般を指します。Webマーケティングは、このあと説明する「エリアマーケティング」と「地域マーケティング」の効率化に有効な手段のひとつです。
具体的な手法としては、次のような例が挙げられます。
- Web広告の配信
- ホームページやオウンドメディアの運用
- SEO
- SNS運用
- 動画コンテンツの配信
- メールマガジンの配信
- ホワイトペーパーの配布
- Web接客の実施
- ウェビナーの開催
上記のようなインターネットを活用したマーケティング活動には、「多くのターゲットにリーチできる」「ターゲティング精度が高い」というメリットがあります。また顧客行動を計測できるため、効果測定や改善を実施しやすい点が特徴的です。
コストを抑えつつ高い成果を得られる可能性が高いので、リソースが限られている地方企業のマーケティング活動に取り入れることがおすすめなのです。
エリアマーケティング
エリアマーケティングとは、各地域の特色にもとづいたアプローチを行うマーケティング手法です。その地域特有の生活様式や産業、交通インフラなどをふまえて戦略を立案し、個別集中的なマーケティングを実施していきます。
特に、小売業や飲食店などの実店舗を持つ業種では、エリアマーケティングが重要であると考えられています。一般的な実店舗ビジネスでは、狭い地理範囲を対象とした集客が基本となるためです。
より成長を遂げていきたい地域密着企業はもちろんのこと、新しい地域への出店を検討している企業も、エリアマーケティングを実施すると非常に効果的です。
地域マーケティング
地域マーケティングとは、地元企業や自治体が主体となり、地域ならではの特色を活かして地域活性化を実現するマーケティング戦略です。地域にヒト・モノ・カネを呼び込むことを目的としており、必ずしも企業が直接的な利益を得ることだけを目的にしていない点が特徴です。
地域マーケティングは、少子高齢化や人口流出による過疎化が進む地方の課題を解決するために実施されます。地域全体の価値を高められれば、地域経済の循環や自治体運営の安定化を実現できるでしょう。
地方創生に成功すると、企業は移住者増加や経済活性化、労働力の確保などのメリットが得られます。地元に貢献できるだけではなく、長期的に企業を存続させることにもつながるのが地域マーケティングのメリットです。
地方企業でマーケティングが重要な理由
マーケティングと聞くと、競合が多い都心の企業や大企業に必要な戦略だと思われるかもしれません。しかし、地方企業であっても、マーケティングは非常に重要性が高い取り組みです。
その理由として、次の4つが挙げられます。
地方企業ならではの強みがあるから
地方には、その地域ならではの高いポテンシャルを秘めた企業が多く存在しています。
地元素材を使った独自性の高い商品や伝統工芸品、品質のよさなど、地方企業には他の地域の企業には真似できない特色があるでしょう。各地域の企業・商品にはその地方ならではの強みがあるため、ブランディングしやすい傾向にあります。
近年は産地直送を売りにしたECモールが注目を集めており、地方の特産品や名産物の需要が高まりつつあります。地方企業ならではの強みをうまくマーケティングに取り入れられれば、大幅な利益向上を狙える可能性があるのです。
ライバルが少ないから
都心は競合他社が多く、情報量も選択肢も多くなります。そのため、マーケティング活動をしっかりと成果につなげるには、高度な戦略や多くのリソースを投入する必要があります。
一方で、地方は都心に比べるとライバルが少なく、積極的にマーケティング施策を取り入れる企業はそう多くありません。そのため、少しの取り組みで競合他社に大きな差をつけられる可能性があるのです。
商圏を拡大できるから
ビジネス形態や取り扱う商材によって異なりますが、どうしても地方企業は商圏が限られやすい傾向にあります。もちろん、地元企業として地域の顧客から厚い信頼を獲得することも大切ですが、競争力を高めたり長く生き残ったりするためには、商圏の拡大が不可欠です。
インターネットを活用するWebマーケティングには、時間的・地理的制約を受けにくいというメリットがあります。ECサイトを運用すれば遠方の顧客にも商品を届けられますし、SNSを活用すれば全国・全世界に自社商材の魅力を発信できます。
マーケティングを実施すれば、全国のみならず全世界を商圏にすることが可能となるのです。
地方の課題を解決できるから
国土交通省が2014年に発表した資料では、2040年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当し、うち523市区町村の人口が1万人未満になると言及されました。このように、少子高齢化や人口流出、担い手不足など、地方の産業・企業は多くの課題を抱えています。
地方企業が積極的にマーケティングを行えば、その企業や土地に魅力を感じる観光客や移住者の増加が望めます。マーケティング活動は、地域の活性化や人口増加につながり、課題解決に貢献できる可能性を秘めているのです。
地方企業におけるマーケティングの課題
地方企業がマーケティングを実施するときは、3つの課題に直面することになります。
ここでは、押さえておきたいマーケティングの課題を具体的にみていきましょう。
人材や予算が不足している
最大の課題は、マーケティングの知識やスキルを持つ人材が不足していることです。
地元の住民に愛されてきた地域密着企業の場合、積極的にマーケティング施策を実施せずとも、安定して集客できるケースもあります。そのため、マーケティングを実施した経験がない企業や、経営層がマーケティング業務を兼任せざるを得ない企業も多いことでしょう。
マーケティングを実施するノウハウや人材が不足している場合は、高度な施策の実施が難しくなります。また、投入できる予算も少なくなる傾向にあるため、可能な取り組みが限られてしまう点も課題となるでしょう。
デジタル施策に慣れていない
一概にいえませんが、地方は都心に比べるとインターネットやSNSの利用者が少ない場合があります。特に、高齢者が多い地域はWeb広告やSNSに慣れておらず、Web施策が十分に効果を発揮しないかもしれません。
近年のマーケティング活動ではWeb施策が中心になりつつありますが、ターゲットによっては他の施策も検討する必要があります。
都心とライフスタイルが異なる
都心と地方では、ライフスタイルが異なります。マーケティングを実施するときは、その土地ならではのライフスタイルを考慮する必要があります。
例えば、都心は公共交通機関やタクシーを使った移動が多くなるため、交通広告の活用が有効です。一方で車社会の地方では、屋外の立て看板やラジオ広告のほうが向いているかもしれません。
地域住民の年齢層やライフスタイルによって、最適な訴求方法は異なります。地域性を考慮のうえ、チャネルや施策を考えていくことが重要です。
へぇ~!地方企業がマーケティングを実施すると、利益向上だけではなく地域活性化にもつながるんですね。
その地域で利益を拡大したいときは「エリアマーケティング」、地域活性化に貢献したいときは「地域マーケティング」と、目的に応じてマーケティング戦略を使い分けることが大切なんだよ。今回のお客さんは、エリアマーケティングを希望しているんだ。
そのエリアマーケティングって、どうやって実施していくんですか?
エリアマーケティングとは
エリアマーケティングとは、それぞれの地域の特性に適したアプローチを行い、利益向上や企業成長を目指すマーケティング戦略です。特定の地域のライフスタイルや産業、交通インフラを考慮し、その地域で利益を最大化するための施策を実施します。
エリアマーケティングは、特に実店舗を持つビジネス形態において重要性が高い戦略です。特定の地域でシェアを拡大したい場合や、地域密着企業として力をつけていきたい場合は、積極的に実施するとよいでしょう。
ここからは、エリアマーケティングについて詳しく解説します。
- エリアマーケティングのメリット
- エリアマーケティングの手順
- エリアマーケティングの成功事例
上記3つの項目をみていきましょう。
エリアマーケティングのメリット
地域を絞ってアプローチするエリアマーケティングには、2つのメリットがあります。
需要・売上を予測しやすい
エリアマーケティングには、需要や売上を予測しやすいというメリットがあります。
ターゲットエリアが特定されていれば、住民の属性やライフスタイルを把握しやすくなるため、消費者のニーズ分析も行いやすくなります。そうなれば、「どれくらいの住民が自社商材のターゲットになるのか」「どれくらいの来店数が見込めそうか」という正確な予測を立てやすくなるでしょう。
需要や売上を正確に把握できると、仕入れや人員の最適化につながります。限られたリソースを有効活用しつつ、利益の最大化を目指せるでしょう。
コストを抑えられる
需要や売上に応じたリソース配分、地域特性に応じた販売戦略は、無駄なコストの削減につながります。
地方企業はマーケティングに割ける予算が限られているケースが多いため、地域の特性にあわせた効率的なアプローチが重要になります。広い範囲から多くの顧客を獲得するよりも、限られた地域のターゲット層を確実にキャッチする戦略から始めることがおすすめです。
エリアマーケティングの手順
エリアマーケティングを実施する手順は、次のとおりです。
- 商圏エリア分析
- 競合分析
- 自社分析
- 施策の策定
- 実行と改善
各プロセスの詳細をみていきましょう。
商圏エリア分析
まずは商圏エリアの分析を行い、地域や住民についての理解を深めましょう。行っておきたい分析内容の一例としては、次のようなものが挙げられます。
- マクロ環境:人口統計・分布、昼夜間人口差、世代構成、経済
- 生活様式:移動手段、行動範囲、買い物の頻度、職業
- 地域文化:住民性、特産物、土地柄、習慣、歴史
地域の社会的・経済的環境はもちろん、住民のライフスタイルやその土地ならではの文化まで幅広く分析することが大切です。分析した内容は地図や表にまとめて可視化しておくと、商圏の特性を俯瞰的に理解しやすくなります。
地域や住民への理解度は、エリアマーケティングの成果を大きく左右します。もっとも大切なプロセスなので、時間をかけて実施しましょう。
競合分析
続いて、商圏エリアにある競合他社の分析を行います。次のように、競合他社に関するさまざまな情報を収集・分析しましょう。
- 店舗数
- 主力商品
- 営業時間・アクセス
- 売り場面積
- 来店者の属性
- 来店ピーク時間
- 販売戦略
特に重要となるのが、「商圏がどれほど重なっているか」というポイントです。競合他社と大きく商圏が重なっている場合は、より強い集客要因が必要になります。
集めた情報をふまえ、住民がライバル企業を選ぶ理由を考えてみます。他社の強みがわかれば、自社の差別化ポイントや実施すべき施策を見つけやすくなるでしょう。
自社分析
自社分析では、次のような内容の分析が有効です。
- 顧客の属性
- 主力商品
- 顧客の居住エリアや勤務エリア
- 営業時間・アクセス
- 来店ピーク時間
- 販売戦略
- こだわり・強み
- シェア率
- 顧客満足度
上記の情報をふまえて自社と競合の状況を比較し、今抱えている課題や自社ならではの強みを明確にしておきましょう。
施策の策定
ここまで準備ができたら、具体的な施策の策定に進みます。
エリアマーケティングを効率よく実施するには、少ないコストで高い成果が得られるWeb施策が有効です。ただし、ターゲットによってはポスティングやDMなどのオフライン施策が有効な場合もあるため、ターゲットにあわせて戦略立案することを意識しましょう。
大切なのは、「競合ではなく自社を選ぶことのベネフィット」を提示することです。商圏の特性やターゲットのニーズをふまえ、自社ならではの価値提供を心がけましょう。
実行と改善
施策を実施したら、成果測定と改善を繰り返すことが大切です。
- 需要・売上予測と実績の乖離
- 実際の集客数
- Web施策や販促物への反応
- 顧客満足度
- チャネルごとの売上貢献度
上記の項目を確認し、改善すべき点があれば施策に反映しましょう。
地域密着企業だからこそ有効なのが、顧客の声に直接耳を傾けることです。
「どこか気になる点はありませんか」
「よりよい商品提供のためにご意見を聞きたいです」
このように顧客に声をかけることで、改善につながる直接的な意見をもらえるだけではなく、住民との信頼関係の構築にも役立ちます。
顧客とコミュニケーションを取りながらマーケティング施策の実行・改善を繰り返していけば、より地元で愛される企業への成長を目指せるでしょう。
エリアマーケティングの事例
エリアマーケティングの事例を2つ紹介します。
地域密着型スーパー
地元で愛されるスーパーマーケットAでは、お得なポイントカードを活用したマーケティング施策を実施。「雨の日はポイント2倍」「チェックインでポイントプレゼント」などの特典を提供し、ついつい足を運びたくなる仕組みを作っています。
さらにポイントカードで顧客・購買情報を管理して、チラシのポスティング範囲選定や需要把握にも役立てています。ポスティングや仕入れの無駄を削減できるため、コストを抑えつつ利益の最大化を実現できました。
地方の美容室
来店顧客数がなかなか増えないことに悩んでいたとある地方の美容室Bは、エリアマーケティングを実施するために商圏や競合の分析を実施しました。
すると、近隣には安価な価格帯でメニューが少ない美容室が多いこと、主な顧客層は中高年であることが判明。若者は繁華街の美容室に足を運ぶことが多く、その地域の美容室を利用する人はほとんどいないことがわかりました。
そこで、1人の顧客に対して1人の美容師が担当する、ラグジュアリーなコンセプトの美容室に路線を変更。若者に人気のメニューやハーブティーのサービスも開始して、競合との差別化を図りました。店内を半個室にすることで、幅広い年齢層の顧客がリラックスして過ごせる空間を作り上げました。
顧客のニーズを捉えた経営スタイルは、既存顧客はもちろん、新しい若年層の新規顧客の心もキャッチ。顧客単価の向上や口コミの獲得など、多くのマーケティング効果を生み出しています。
普通のマーケティングでも、市場やターゲット、ニーズ分析はするでしょう?そこに、特定の地域ならではの地理的・文化的要因、住民性を加味していくっていうのが、エリアマーケティングかな。
そう聞くとシンプルでわかりやすいです!不特定多数をターゲットにする場合と、限られた地域の住民をターゲットにする場合では、たしかに分析方法や最適な戦略が違ってきますもんね……。
もうひとつの「地域マーケティング」っていうのは、どんなマーケティング戦略なのでしょうか?
地域マーケティングとは
地域マーケティングとは、地元企業や自治体が手を組んで実施する、地域コミュニティや経済の活性化を目的としたマーケティング戦略です。外部からの観光客に向けた施策だけではなく、地元住民に向けた取り組みも地域マーケティングに含まれます。
地元の魅力を発信することで、資金流入や雇用創出、地方創生の実現を狙います。地域に適したマーケティング戦略で自社の利益拡大を狙うエリアマーケティングとは異なり、地域全体にヒト・モノ・カネを呼び込むことを目的にしている点が特徴です。
ここからは、地域マーケティングの概要について説明します。
- 地域マーケティングのメリット
- 地域マーケティングの手順
- 地域マーケティングの代表的な取り組み
- 地域マーケティングの成功事例
各項目についてみていきましょう。
地域マーケティングのメリット
地域マーケティングを実施するメリットとして、次の3つが挙げられます。
地域の経済が活性化する
地域マーケティングは、地域経済の活性化に効果を発揮します。地元企業の収益増加はもちろんのこと、観光客が増えることによる経済効果も期待できるでしょう。
地域経済が潤えば、新しい産業や雇用が創出されてさらに暮らしやすい環境が整います。また、税収アップによる生活インフラの整備にもつながるでしょう。
地域のコミュニティが活性化する
地域コミュニティの活性化も、地域マーケティングがもたらしてくれる大きなメリットです。その地域で暮らしている「定住人口」はもちろんのこと、観光客などの「交流人口」、地域とつながりを持つ「関係人口」が増えれば、にぎやかで活気のある地域になります。
帰属意識が向上する
地域マーケティングで経済や街が活性化すれば、住民が住んでいる地域に誇りを持てるようになったり、愛着が深まったりする可能性があります。地域内のつながりが強化されることで、人口流出の防止やよりよい街づくりにつながり、地域がさらに活性化する好循環が生まれるでしょう。
地域マーケティングの手順
地域マーケティングを実施する手順は、次のとおりです。
- 魅力の棚卸し
- ターゲットの選定
- 地元の企業や住民との連携
- 施策の策定
- 戦略の実行と改善
各プロセスのポイントをみていきましょう。
魅力の棚卸し
地域の特性や観光資源は、地域マーケティングの戦略策定における大切な材料です。初めに、その地域ならではの魅力を明確化しましょう。
- 地場産業
- 観光名所
- 伝統・文化
- 特産品・名産物
- 独自のサービス
- 地域内のコミュニティ
- 住民の価値観・住民の行動
- 移住者の状況
上記のようなさまざまな視点から、他にはない独自性を探し出しましょう。このとき重要なのは、「優れているかどうか」という価値観に縛られすぎない点です。
例えば、「大きな滝があるけれど、他の県の方が大きくて綺麗だしな……」と候補から除外してしまうことはおすすめできません。「アクセスがよい」「新しい付加価値を加える」など、訴求方法によってはその地方ならではの魅力に転換できる可能性があるためです。
特徴的な特性・資源がある場合は、優劣にかかわらずピックアップしておきましょう。
ターゲットの選定
次に、ターゲットを選定します。観光資源を訴求するなら観光客、地元の特産品を販売するなら購入者の絞り込みとニーズの分析を行いましょう。
場合によっては「冬にしか見られない風景がある」「この特産品は夏が旬」など、シーズンを考慮したうえで訴求していく必要があるかもしれません。より最適な方法でターゲットに訴求できるように、観光客を呼び込みたい時期や特産品の販売期間を整理しておくことも大切です。
地元の企業や住民との連携
地域マーケティングを実施するときは、地元企業や住民から理解を得たり一緒に取り組んだりする必要があります。スムーズに連携できるように、地域の関係者からの理解を得ておきましょう。
地域の連携には、企業や住民が交流できるイベントの開催が有効です。コミュニケーションを取って良好な関係性を築いておけば、快く協力してもらえるようになるでしょう。
自治体や企業、住民の意識や方向性に違いがあると、地域マーケティングは成功しにくくなります。事前に取り組みの意義や理念を浸透させ、地域全体が同じ方向を向いて取り組めるように準備を進めておくことが重要です。
施策の策定
地域の魅力とターゲットのニーズから、地域マーケティングの施策を策定しましょう。
この際、地域の人々から理解を得たうえで施策を決定することが大切です。自治体や企業が勝手に施策を決めてしまうと、後々トラブルに発展するリスクが高まります。
可能であれば、住民からも意見を募ってみることがおすすめです。自治体や企業が思いつかないような、住民ならではのアイデアが得られるかもしれません。
必要な場合は、施策を策定したタイミングで資金調達も行います。国の助成金を活用したりクラウドファンディングを実施したりして、必要な資金を準備しておきます。
戦略の実行と改善
準備が整ったら、地域マーケティング戦略を実行しましょう。初めからうまくいくケースは滅多にないので、ターゲットの反応をみながら施策を見直していくことが大切です。
また、地域の企業や住民の反応もしっかりと確認してください。地域マーケティングは、地元住民の協力がなければ成り立ちません。不満を抱いたり負担が大きくなってしまったりする企業・人がいる場合は放置せず、早めに対処してください。
地域マーケティングの代表的な取り組み
地域マーケティング戦略を立てている担当者のなかには、「地域の魅力やターゲットにすべき層がわからない」「具体的な施策が思いつかない」という方もいることでしょう。
そのような方に向けて、ここでは地域マーケティングの具体的な取り組みを4つ紹介します。
観光・街づくり
独自の地形や伝統工芸、街の風景を活かした、観光振興による地域活性化を図る手法です。地域マーケティングと聞くと、この取り組みをイメージする方が多いかもしれません。
近年は、商品やサービスを利用することで得られる体験・経験を重視する消費行動(コト消費)への注目度が高まっています。そのため、ここでしかできない体験・ここでしか見られない風景は求心力が強く、多くの顧客を呼び込める可能性を秘めているのです。
とはいえ、すべての地域が特徴的な観光名所や伝統工芸を保有しているわけではありません。現時点でアピールできる材料が何もない場合は、作り出してしまうのもひとつの手でしょう。「何もないからこそ星が綺麗に見えるキャンプ場」「恋人の聖地」というように、新しい付加価値をつけることで観光名所化に成功しているケースは多く存在しています。
産業・教育
産業や教育プログラムを活かして地域を活性化するのも、地域マーケティングのよくある手法です。地域の産業や教育プログラムを通して地域に興味を持ってくれる人が増えれば、観光客や移住者の増加につなげられるでしょう。
わかりやすい例として、地域産業にまつわる観光ツアーの開催が挙げられます。最近は、試飲ができる酒蔵ツアーが人気を博していますよね。他にも、工芸品の販路拡大によって地元企業や経済の活性化を図る取り組みが有効です。
教育を取り入れた戦略では、地域産業に携わる人材養成への取り組みや、地元企業の若い人材に向けた訓練プログラムの実施が一例として挙げられます。なかには、地域の社会課題を解決するためにIT人材育成事業を行っている自治体もあります。
農業
近年重要性が高まっているのが、農業を通じた地域マーケティングです。担い手不足が深刻化している農業を活用した戦略は、地域経済や農家にとってメリットが大きい取り組みであるといえます。
具体的な施策としては、デジタル技術を活用した農業の効率化や助成金制度の整備が挙げられます。企業だけの取り組みでは難しい面も多いため、自治体と協力しながら取り組んでいくことが重要です。
この取り組みは、農業の基盤を安定させられるだけではなく、後継者の定着や外部からの農業就業希望者の増加など多くの利益をもたらしてくれます。
移住
外部から移住者を募り、地域活性化を目指す地域マーケティングの戦略です。
最近は、移住者を対象に補助金や住居を提供する自治体や、地方の就業・企業を支援するサービスが増えてきました。新天地での生活を求める人をターゲットに、移住を後押しできる価値を提供することも地域活性化には有効でしょう。
補助金や雇用によって個人を誘致する施策以外にも、企業を対象に誘致する施策も増えつつあります。企業を誘致できれば、いっそう大きな経済効果・雇用創出効果が得られるでしょう。
地域マーケティングの成功事例
地域マーケティングの成功事例として、2つの自治体の取り組みを紹介します。
長野県阿智村
長野県阿智村は、長野県の南端に位置する温泉地です。もともと有名な観光地ではなく、観光客の減少や少子高齢化によるマーケット縮小に頭を抱えていました。
そこで、2006年に環境省から認定された「夜空の明るさが星の観測に適している場所」という評価を活用することに。「日本一の星空」を使ったブランディングにより、観光客の誘致に乗り出します。
春から秋にかけて実施する「日本一の星空ナイトツアー」の参加者は、初年度の2012年度が約6,500人だったのに対し、3年後の2015年度には6万2,000人にも増加しました。2018年には、星空関連イベントの累計来場者数が50万人を超えています。
さらに、星空を売りにしつつ星空だけに依存せず、温泉旅館の宿泊者増加にも尽力。星空による集客効果を観光業以外の産業にも波及させる仕組みを整備して、雇用創出や定住人口の増加にも取り組んでいます。
広島県広島市
平和都市として世界的に認知度が高い原爆ドームを有する広島県広島市。国内外から観光客が訪れはするものの、中心部以外の近隣地域への来訪が伸びないという課題を抱えていました。
そこで広島市は、通過型観光地から滞在型観光地へのシフトを目指し、ここでしかできない「平和×アクティビティ」のアドベンチャーツーリズムを実施。交流人口の増加や中山間地域の活性化に注力しています。
温泉総選挙2021では、広島市の湯来温泉が総務大臣賞・観光庁長官賞をW受賞。地域資源を活かしたアドベンチャーツーリズムによる観光客の増加や雇用創出が、経済効果の好循環を生み出したとして評価されました。
今ある資源を活かすのはもちろんのこと、新しく価値を創出することも地域マーケティングでは重要なんだ。
地域活性化って、際立った強みがある地域しかできないと考えていたんですけど、どんな地域にも可能性が隠されているんですね!なんだか楽しそう~!
そうだね。これからはマーケティングを実施する地方企業が増えるだろうし、ビギニャー君もお客さんのお手伝いをすることがあるかもしれないよ。そのときのために、地方企業がマーケティングを成功させるポイントも学んでおこうか。
地方企業がマーケティングを成功させるポイント
地方企業がマーケティングを成功させるには、以下の4つのポイントを意識する必要があります。
- 地域ブランドを確立する
- ニーズを意識する
- 共有したくなる体験型コンテンツを作る
- マーケティングの専門家やITシステムを活用する
各項目を詳しくみていきましょう。
地域ブランドを確立する
地方企業のマーケティングでは、その地域・企業ならではのブランディングを確立することが不可欠です。「〇〇といえば〇〇町」「〇〇といえば〇〇社」というように、キーワードから地名や企業を連想できる状況を作り上げることが理想的です。
例えば、静岡のファミリーレストランと聞くと「さわやか」を思い浮かべる方は多いでしょう。では、北海道のコンビニではどうでしょうか。多くの方が「セイコーマート」を連想するのではないでしょうか。
このような地域ブランドの確立は簡単なことではありませんが、独自性の高い商品・サービス提供を持続的に行うことで、少しずつ形にしていくことができます。ブランディングには長期的な取り組みが必要なので、時間をかけて根気強く発信していきましょう。
ニーズを意識する
地方企業のマーケティング戦略には、顧客ニーズの理解が不可欠です。
いくら熱心にマーケティング施策に取り組んでも、そこにニーズがなければ集客にはつながりません。「企業が発信したいこと」だけではなく、「消費者に必要とされていること」「求められている発信方法」を理解することが重要となります。
企業が主体となって商品やサービスを開発すると、どうしても視点が偏ってしまいます。顧客ニーズを理解するためにも、ターゲットにアンケートを取ったりインタビューしたりして直接意見を聞いてみるとよいでしょう。
共有したくなる体験型コンテンツを作る
地方企業がマーケティングを成功させるには、顧客による情報拡散の力を借りる必要があります。顧客が自発的に情報を拡散してくれれば、企業がリーチできる範囲以上の認知拡大効果が得られます。
情報を拡散してもらうには、共有したくなる体験型コンテンツの提供が有効です。特産品や工芸品を並べるだけ、街並みを見てもらうだけではなく、手に取ったり味わったり挑戦したりできるサービスの提供を検討してみましょう。
ユニークな体験や思い出の写真を残せれば、SNSで拡散してもらえる可能性が高くなります。
Webマーケティングの専門家やITシステムを活用する
地方企業のマーケティング戦略には、メディア運用やSNSの活用が欠かせません。また、Webメディアや顧客から得られる膨大なデータを活かした施策も重要になります。そのため、Webマーケティングの専門家やITシステムの活用は不可欠です。
地方企業のマーケティングで役立つITシステムの一例としては、次のようなものが挙げられます。
ツール名 | 役割 | 機能一例 |
アクセス解析ツール | WebサイトやSNS上のユーザー行動を解析する |
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CMS | 画像やテキストを一元管理して、プログラミングなしでWebサイトを構築する |
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GIS(地理情報システム) | 地図上に情報を重ね、相関関係や傾向を可視化する |
|
MAツール | 見込み顧客の情報管理やマーケティング施策を効率化・自動化する |
|
CRM | 顧客の情報や行動を管理し、良好な関係性の構築をサポートする |
|
上記のツールに加え、Web広告やオウンドメディア、SNSの運用に関する知識も必要になります。実施する施策にあわせて、ツールやメディアを使いこなせるようにしておきましょう。
自社に対応できる人材がいない場合は、外部パートナーと連携することもおすすめです。プロの力を借りれば、確実に成果につながるマーケティング施策を実施できます。
ふむふむ。勉強になりました、先輩ありがとうございます!僕もいろいろな地域の企業に頼ってもらえるように、地方企業のマーケティングについて知識を深めておこうっと!
おっ、いい心がけだ!それだけやる気があるなら、僕が不在でもこっちは大丈夫そうだね。お土産楽しみにしていてね!
わ~い!!食べ物希望です!出張、気をつけていってきてくださいね!
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