店舗やECサイトなどで商品・サービスをお客さまに提案する際、売上アップに効果的だと言われる「アップセル」「クロスセル」。
言葉を聞いたことがあっても、意味の違いをきちんと理解できていない方も多いかもしれません。
今回は、「アップセル」「クロスセル」がそれぞれどのような手法なのか、具体的な活用方法とともにやさしく解説します。
事例も参考にしながら、ぜひ自社の戦略に取り入れてみてくださいね。
先輩~、お昼ごはん買ってきたんで一緒に食べましょう~!先輩は新商品のハンバーガー買ったんですね、おいしそう~!
おお、ビギニャー君お疲れさま。いつものやつを買おうとしたら、新商品をアップセルされちゃって。高かったけどついそっちに変更しちゃったよ。
あ、アップ…ル?りんごですか…?
アップセルとは?
アップセルとは、お客さまが買おうとしている商品よりも上位モデルの商品を提案する営業手法です。上位モデルの商品とは、より高機能な商品や高価格な商品などのこと。たとえば、以下のような接客を受けた経験はありませんか?
- 家電を買おうとしたら、機能が充実した最新モデルをおすすめされる
- 飲食店で注文するときに、+150円の大盛りをおすすめされる
- 無料アプリを使っているときに、有料プランの広告が出る
今検討しているものよりも高機能・高額な代替品を提案する手法は、すべてアップセルに含まれます。
「アップセル」と「クロスセル」の違い
「アップセル」と「クロスセル」は、どちらも顧客単価を上げることを目的とした、売上アップのための手法です。
目的は同じですがアプローチ方法が異なり、アップセルは上位モデルの商品を提案、クロスセルはセットとなる商品の提案を行います。商品のラインナップやお客さまのニーズ、タイミングに応じて適した手法を使います。たとえば、以下のような提案がクロスセルの一例として挙げられます。
- パソコンを買うときに、ウイルス対策ソフトを一緒におすすめされる
- ビールの陳列棚の横におつまみコーナーを設ける
- ランチメニューとセットにすると安くなるドリンクバーメニューを提案する
このように、今検討している商品にプラスして別商品を買わせる手法が、クロスセルに該当するのです。
「アップセル」と「ダウンセル」の違い
「アップセル」は、顧客単価を上げることで売上アップにつなげる手法です。一方、「ダウンセル」という手法もあります。ダウンセルは、より低価格の下位モデルをあえて提案する営業手法です。この手法は、お客さまが価格を理由に商品の購入を断念しようとしているときに効果的です。
アップセルのほうが売上アップの効果は高いですが、ダウンセルにより失注を回避できれば、結果的に売上アップにつながります。アップセルとダウンセルは、お客さまの属性や行動に応じて使い分けます。
アップセルがよく分かりました!
アップセルとクロスセルは、企業が利益を上げるために重要な施策なんだよぉ。
そうなんですか!?
アップセルとクロスセルが重要な理由
アップセルやクロスセルが重視されている理由は、次のとおりです。
- 新規顧客獲得の施策は、コストが高騰しているから
- LTVの向上のため
各理由を解説していきましょう。
新規顧客獲得の施策は、コストが高騰しているから
売上は「顧客数×購入率×顧客単価」からなります。売上アップのためには、「顧客数」「購入率」「顧客単価」をそれぞれ増やす必要があります。
しかし近年、新規顧客獲得の施策は、コストが高騰している上、成功しにくくなってきています。つまり、顧客数を増やす難易度が上がっている状況です。
その背景として、少子高齢化による人口減少や、競合他社・競合商品の増加による市場の飽和などがあります。そこで、顧客単価を上げるための施策としてアップセルやクロスセルがさらに、重視されるようになりました。
LTVの向上のため
顧客単価の向上は、1回の購入だけでなく、1人のお客さまが生涯にわたってもたらす利益(LTV:Life Time Value)にも関係しています。新規顧客獲得が難しくなるなか、より重視されているのが既存顧客をつなぎとめることです。
既存顧客と良好な関係性を維持できれば、リピート購入や利用期間が増加して、LTVが向上します。既存顧客との関係維持には、新規顧客獲得ほどのコストはかかりません。
また、いくらコストをかけて新規顧客を獲得しても、顧客単価の向上やリピートにつながらなければ、売上があっても利益は上がらないという状況になってしまいます。
LTVを高めることができれば、コストを抑えつつ継続的な利益の獲得を目指せます。そのための施策としても、アップセルやクロスセルが注目されているのです。
あ、僕知ってます!新規顧客を1人獲得するときは、既存顧客に販売するときの5倍のコストがかかる「1:5の法則」があるんですよね!
よく覚えていたね、えらいえらい!アップセルとクロスセルはとっても有効なんだけど、提案するタイミングに気をつけないと逆効果になってしまう難しい施策なんだよ。
そうなんですか!?単に商品をおすすめするだけじゃダメなんですね……。
アップセルとクロスセルは最適なタイミングが違う
似たような施策に思われがちなアップセルとクロスセル。実は、それぞれの提案に適したタイミングが異なります。アップセルとクロスセルを成功させるために押さえておきたい、効果的な提案のタイミングをご紹介しましょう。
アップセルに適したタイミング
アップセルに適しているのは、商品の検討段階です。とくに、「この商品に決めようかな?」と決意する直前に提案できると成功率が一気に上がります。
たとえば、「このパソコンを購入しようかな」と購入の意志が固まりつつあるときに、「ひとつ新しいモデルなら、+2万円で処理速度と容量が増えてより快適に使えますよ」と案内されたら「こっちのほうがお得かも!」と思ってしまいませんか?
このタイミングであれば、「価格の差を上回る価値がある」ことをイメージしてもらいやすいため、アップセルを成功させやすいのです。
クロスセルに適したタイミング
クロスセルに適しているのは、商品の購入を決意した直後の段階です。「この商品を買おう!」と明確に決意したあとに、「この商品があればもっと便利ですよ!」「皆さんこちらも買っています」と伝えられると、ついつい「じゃあそれも……」と購入したくなってしまいますよね。
反対に、まだ商品の購入を明確に決めていない段階であれもこれもと勧められると、押し売り感や金額の高さが目につきやすくなり、主商材の購入自体も見送られるリスクがあります。タイミングによって成功率は大きく変わってしまうので、提案する際は十分注意しましょう。
なるほどぉ……。たしかに、それぞれの商品を提案されるタイミングによって、抱く印象が違うかもしれないです。
タイミングはもちろんのこと、ほかにもアップセルとクロスセルを成功させるためのコツはいろいろとあるんだ。
アップセルとクロスセルを成功させるコツ
アップセルやクロスセルを成功させるためには、タイミング以外にも意識したいポイントがあります。ここでは、しっかりと成果を出したい企業が押さえておきたいコツを3ステップでご紹介します。
- 顧客目線の魅力的な提案を考える
- 顧客ロイヤルティを向上させる
- タイミングを見て提案する
各ステップを順を追って確認していきましょう。
顧客目線の魅力的な提案を考える
企業の都合で商品を勧めるだけだと、押し売り感が強くなりお客さまに悪い印象を抱かれてしまうおそれがあります。お客さまのニーズに沿った魅力的な提案をするためにも、まずは自社の商品の売れ方やお客さまの属性・行動を分析することが大切です。
- 人気商品やセットで買われることが多い商品
- お問い合わせが多い内容
- 顧客の属性
- 顧客の購入状況
上記のような情報を収集・分析することで、アップセル・クロスセルに適した商材や対象となるお客さまが見えてきます。その上で仮説を立て、店舗やECサイトでまずは少数のお客さまに対して検証を行い、より成功率の高い施策へと改善していきましょう。
顧客ロイヤルティを向上させる
マーケティングの文脈で使われる顧客ロイヤルティとは、お客さまが企業や商品に対して抱く信頼や愛着のことを指します。
その企業や商品のことをよく知らない状態よりも、「ここの商品は信頼できる」「この担当者さんはいつも役立つ情報をくれる」という顧客ロイヤルティの高い状態のほうが、アップセル・クロスセルの成功率は上がります。
アップセル・クロスセルと合わせ、顧客ロイヤルティを向上させる施策も実施していきましょう。たとえば、以下のような方法があります。
- SNSでのこまめな情報発信
- コミュニケーション
- LINEやメールを活用した購入状況ごとのアフターフォロー
- ECサイトのコンテンツの充実
タイミングを見て提案する
アップセル・クロスセルにはそれぞれ最適なタイミングがあります。しかし、最適なタイミングを見極めることはとても難しいものです。「どのお客さまが高いロイヤルティを抱いているのか」「いつ購入を決意しそうなのか」などの一人ひとりの細かい情報を、企業側が完全に把握することはできません。
そこで、専用のツールや専門家の活用も検討してみましょう。たとえば、以下のようなツールやフレームワークが役立ちます。
ツール・手法 | 解説 |
MAツール | 「MA」は「Marketing Automation」の略。新規顧客獲得のためのマーケティング施策を効率化・自動化できるツール。 |
CRMツール | 「CRM」は「Customer Relationship Management」の略。顧客に関する情報を一元管理して、関係性の維持・向上を目指すツール。 |
SFAツール | 「SFA」は「Sales Force Automation」の略。営業活動における案件管理・顧客管理を効率化・自動化できるツール。 |
RFM分析 | 「最終購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「購入金額(Monetary)」の3つの指標から顧客をグループ分けする分析手法。 |
今まで何気なくアップセルとクロスセルを取り入れた接客を受けてきていましたが、こんなに細かく戦略を練って提案されていたなんて知りませんでした……!
お客さま目線で提案しないといけないから、けっこう大変なんだよぉ。でも、成功すれば大きな利益アップが見込めるし、ビギニャー君も仕事で意識してみるといいかも。
はいっ、今日から意識してみます!先輩、参考までにアップセルとクロスセルの成功事例についても教えてもらってもいいですか?
アップセルとクロスセルの効果的な事例
具体的にどのようなアップセル・クロスセルが効果的なのか、代表的な事例を紹介します。
ネット通販
営業手法 | 事例 |
アップセル | 「こちらもおすすめ」で上位モデル商品のレコメンド、「商品を比較する」などの一覧表で上位モデルの優位性アピールなど |
クロスセル | 「この商品と一緒によく購入される商品」「この商品を購入される方にはこちらもおすすめ」といったレコメンドなど |
ネット通販は、顧客のデータを収集・分析しやすく、お客さまごとに適切なアップセル・クロスセルを行いやすい環境です。
また、明確な目的や購買意欲を持ったお客さまが多い傾向にあり、アップセル・クロスセルが効果を発揮しやすいと言えます。Amazonなどの大手通販サイトはアップセル・クロスセルをうまく行っており、参考になります。
小売・物販
営業手法 | 事例 |
アップセル | 同シリーズでより高機能の商品提案など |
クロスセル | ○点購入で○割引、セットで割引など |
小売・物販は、POSデータの活用によって、より効果的なアップセル・クロスセルを提案できます。ポイントカードなどで会員情報を収集できる場合は、そのデータも活用しましょう。
また、周辺の人通りや来店しているお客さまの様子、その日の天候など、リアルタイムの情報を基に柔軟な提案ができるのは、店舗ならではの強みです。
営業手法 | 事例 |
アップセル | +○円でドリンクのサイズアップ、+○円でトッピング、コース展開など |
クロスセル | ドリンクやサイドメニューのセットなど |
飲食店でも、小売・物販と同様にPOSデータやポイントカードの会員情報、店舗だから分かるリアルタイムの情報を活用できます。
飲食店はとくに時間帯による来店の波が大きいため、時間帯ごとに提案内容を調整することも効果的です。大手チェーン店は、たとえばマクドナルドがアップセル・クロスセルを積極的に行なっており、参考になります。
サービス系商材
営業手法 | 事例 |
アップセル | 無料プラン利用後の有料プランの案内、上位プランへの案内など |
クロスセル | オプションメニューの提案など |
サービス系商材では、まずは無料や低価格のプランを試してもらい、その後上位プランを案内するというアップセルがよく行われています。
お客さまにとってサービスそのものが魅力的であることは大前提として、まずは試してみたくなる下位プランと、継続して使いたくなる上位プランというように、プラン展開を工夫する必要があります。
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