D2Cとは、卸業者や小売店などの中間業者を挟まずに製造から販売までを自社で一貫して行うビジネスモデルです。販売はECサイトが中心となります。
近年、アパレルや食品の分野でD2Cに参入する事業者が増えてきたので、消費者として利用したことがある方は多いかも……?
この記事では、注目が高まるD2Cの特徴や成功事例についてわかりやすく解説します。
先輩、それ美味しそうですね~。何食べてるんですか?
これね、今人気の完全栄養食品「にゃんこフード」の猫缶だよ。D2Cの食品業者なんだけどね、気に入ってて毎月定期購入してるんだ~。
美味しそうですね!僕にも一口……って、あれ?D2Cって何だっけ……?
D2Cとは?
D2Cとは「Direct to Consumer:消費者直接取引」の略。メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社のECサイトでお客さま(消費者)に直接販売するビジネスモデルです。
卸業者や小売店などの中間業者を一切挟まずに、すべて自社で完結させる点が大きなポイント。D2Cについて知るために押さえておきたい言葉として、「B2C」や「SPA」があります。
B2Cとの違い
B2Cは「Business to Consumer:企業対個人の取引」の略。企業が代卸業者や小売店などの中間業者を経由して、商品・サービスを消費者に提供するビジネスモデルです。一般消費者が利用するECサイトや実店舗の多くはB2Cです。卸などの企業間取引を「B2B」、フリマアプリなどの個人間の取引を「C2C」と呼びます。
実店舗での製造直販はSPA
SPAは「Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業」の略。メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社の店舗でお客さま(消費者)に直接販売するビジネスモデルです。D2Cの販売がECサイトを中心としているのに対し、SPAの販売は実店舗を中心としています。
SPAはD2Cより前に、アパレル業界から始まったビジネスモデルです。日本の企業では、ユニクロやニトリなどのビジネスモデルがSPAに当たります。
D2Cは2000年代後半にはアメリカで登場していたんだけど、最近より注目されるようになってきたんだよ。
たしかに、自社サイトでしか買えない商品って増えてきてるかも……。どうしてD2Cは注目されるようになったんですか?
D2Cが普及した理由
2000年代後半にアメリカで登場したD2Cが近年あらためて注目を浴びていることには、大きく4つの理由があります。
- スマホ世代への対応
- モノよりも体験を重視する消費者が増えた
- サプライチェーンの進化
- ECサイト構築のハードルが下がった
それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
スマホ世代への対応
D2Cは、幼少期からスマートフォンを使いこなしてきた世代をターゲットとしたビジネスモデルです。日常的にネットで買物をする世代が大人になったことで、ECサイトを中心に展開するD2C業者が利益を上げやすくなりました。
加えてインターネット技術が発展し、企業が自社だけでマーケティングや販路を確保できるようになったことも大きく影響しているでしょう。
モノよりも体験を重視する消費者が増えた
技術の進歩や競合他社の出現により、商品やサービスの機能性や価格などに差がなくなる「コモディティ化」が進みつつあります。その影響で、消費者はモノを消費するよりも、モノを通して得られる感情や体験に価値を感じる「コト消費」を重視するようになりました。
D2Cブランドは、自社提供ならではのきめ細やかなサービスや世界観で他社との差別化を図りやすいため、まさに現代の価値観・ニーズにマッチしたビジネスモデルだと言えるのです。
サプライチェーンの進化
サプライチェーンとは、製造から配送、お客さまに商品が届くまでの一連の流れのことです。近年は中国などの製造業者が進化し、少ないロットでも安く商品を作れるようになりました。
必要な分だけ少しずつ発注できるため、お客さまの細かなニーズに応えられるようになり、小規模な企業でもD2Cに参入して利益を上げやすくなったのです。
ECサイト構築のハードルが下がった
ECサイトの構築は、かつては多くのコストや時間、専門知識が求められるものでした。しかし技術の発展により、近年は専門知識がなくてもECサイトを構築でき、かつ低価格で利用できるプラットフォームが増えています。
ECサイトの構築のハードルが下がったことで、より多くの企業が簡単にECサイトを運営できるようになり、ECサイトを中心に販売を行うD2Cへの参入も増えているのです。
たしかに、店舗よりもネットで買い物することが増えたから、ECサイトでしか買えない商品でもあまり困らないかも……。
D2Cは企業にとってメリットが多いから、その影響もあって参入する企業が増えているんだ。
D2Cブランドのメリット
D2Cブランドのメリットは、以下の3点です。
- 収益を出しやすい
- 顧客データを収集しやすい
- 自社独自のマーケティングが行える
これらのメリットを活かすことが、D2C成功のポイントとなります。
収益を出しやすい
D2Cは卸業者や小売店などの中間業者を経由しないため、その分の手数料や流通コストを削減でき、利益率を向上させやすいメリットがあります。
また、他社を介さないためトレンドに対応しやすく、すぐに「今売れている商品」の開発・販売が可能です。そのため、従来のビジネスモデルよりも効率よく収益アップを目指せるのです。
顧客データを収集しやすい
中間業者が存在しないD2Cでは、お客さまと直接やり取りを行うため、顧客の情報を収集・分析しやすいという強みもあります。
また、自社のECサイトや店舗の情報だけを見ればいいので、データの収集・分析が効率的です。その分素早くPDCAサイクルを回せて、つねに最良のマーケティング戦略にブラッシュアップできます。
自社独自のマーケティングが行える
商品の企画・製造から販売まで、すべてを自社で行うD2Cは、独自のマーケティングが行いやすいです。
「こういう見せ方をしたい」「商品イメージに合わせてラグジュアリーな陳列にしたい」といった要望に柔軟に対応できます。独自性の高いブランディングができるので、ほかの企業としっかり差別化を図りたいときに有効です。
自社だけで完結するから、利益率が高くて戦略をコントロールしやすいんですね!
そうそう。だからD2Cでスタートして、業績が伸びてから小売店や大型ECモールに進出するブランドも増えてきてるんだよね。
でもね、D2Cにはデメリットもあるから注意が必要なんだよ。
D2Cブランドのデメリット
D2Cブランドには、以下のようなデメリットがあります。
- 顧客の獲得や売上アップに時間がかかる
- 商品力やブランド力が重視される
D2Cに参入する場合、メリットだけでなくデメリットも十分に理解しましょう。その上で、デメリットを補うための戦略を立てる必要があります。
顧客の獲得や売上アップに時間がかかる
D2Cは自社のECサイトを中心に販売を行うため、お客さまの獲得や売上アップに時間がかかります。知名度の低いブランドや立ち上げたばかりのECサイトの場合、お客さまに知ってもらうだけでも大変です。
また、商品を販売した後の発送や顧客対応、アフターフォローなどをすべて自分たちで行う必要があります。コストやリソースがかかるので、なかなか軌道に乗らず撤退してしまうブランドも少なくありません。
商品力やブランド力が重視される
D2Cブランドは、大型ECモールなどでも似たような商品が簡単に手に入る状況のなかで、わざわざ自社サイトに訪れてくれるファンを増やさなくてはいけません。
そのためには、高品質な商品の製造はもちろん、ブランド力や顧客体験などのさまざまなポイントで他社と差をつける必要があります。一般的なビジネスモデルと比べると、新規顧客の獲得が難しいのは理解しておきましょう。
Amazonとかに出店しないで自社サイトだけで売るとなると、たしかにブランド力がないと不利ですよね。そう簡単にD2Cは成功させられないかぁ……。
そうだね。大型ECモールは何でも買えて送料や配達も速いから、そこと戦うとなるとけっこう大変かも。だから、D2Cはポイントを押さえて戦略を立てることが大切なんだ。
D2Cを成功させるポイント
D2Cを成功させるためには、以下の3つのポイントを意識することが大切です。
- 独自性を高めて他社と差別化を図る
- コンテンツ重視のマーケティング
- 顧客とのコミュニケーションを深める
これらのポイントを、自社の商品や運営体制でどのように打ち出せるかを考えましょう。
独自性を高めて他社と差別化を図る
D2Cで成功するための大前提として、ブランドに独自性があることが重要です。ブランドの独自性は、商品の独自性と、商品の販売に関連するサービスの独自性の両方から高めることができます。
商品の独自性
商品の独自性としては、品質や価格、デザイン、機能などがあげられます。何かひとつが特徴的という他に、高品質なのに手頃な価格、デザイン性と機能性の両立など、複数の特徴を掛け合わせることでも独自性を出せます。
お客さまにとって、持っていると「嬉しい」「役立つ」「自慢できる」といった、ポジティブな感情になれるようなブランドを目指しましょう。
サービスの独自性
サービスの独自性としては、購入前後のカスタマーサポートや配送、梱包、購入後のアフターサービスなどがあげられます。商品の検討から購入に至るまで、「ここで買い物をして良かった」と思ってもらえる体験を提供することが重要です。
また、購入後も「買って良かった」と思ってもらえるサービスを提供することで、リピートにつながり、ファンになってもらえる可能性が上がります。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、お客さまにとって有益な情報を発信することで、お客さまとの関係性を築いていくマーケティング手法です。ただ商品を紹介するのではなく、お客さまのお悩みや、知りたいことに寄り添った情報発信を行います。
情報発信の方法は、オウンドメディアやブログ、ECサイトなどがよく活用されます。お客さまの層によっては、カタログなどの紙媒体が効果的なこともあります。
顧客とのコミュニケーションを深める
D2Cを成功させるためには、ブランドのファンを増やすことが重要です。ファンを増やすために、お客様とのコミュニケーションを深めましょう。D2Cにおける、お客様とのコミュニケーションには、次の手法があります。
- コンテンツマーケティング
- メルマガ
- LINEなどのSNS
- 同梱チラシなどの情報発信
顧客とのコミュニケーション方法は複数あるので、事業内容や会社状況に応じて適切な手法を選択しましょう。
また、顧客とのコミュニケーションを深めるには、カスタマーサポートも重要です。なにか問題が起きても、お客様の話をよく聞き、真摯に対応すれば、関係性はより深くなっていきます。
ブランドを選んでもらうことが大切なんですね。D2Cに向いているブランドの傾向ってあるんでしょうか……?
ここまでのポイントをまとめると、ある程度の傾向が見えてくるよ。
D2Cに向いている会社・ブランド
D2Cに向いている会社・ブランドの特徴として、以下の3点があげられます。
- 商品・サービスで独自性を打ち出せる
- 必要な初期投資に耐えうる準備ができる
- Webマーケティングに必要な運営体制を作れる
これらの特徴を備えている会社・ブランドは、一度D2C参入を検討してみると良いかもしれません。
商品・サービスで独自性を打ち出せる
D2Cで成功するには、まず、自社のECサイトでしか買えない、他にない特徴を持ち、かつ需要のある商品が重要です。自社の商品にそういった特徴があるかどうか考えてみましょう。
新たに商品を企画する場合、競合や市場を十分に調査した上で、独自性を意識しなければいけません。商品だけでなくサービス面でも、自社のECサイトならではの体験を提供することで、より独自性を高めることができます。
必要な初期投資に耐えうる準備ができる
D2Cは初期投資を比較的抑えることができますが、それでもコストはかかります。また、売上が軌道に乗るまでに時間がかかる傾向にあります。
D2Cに参入するにあたっては、ECサイトの構築と運営、マーケティング施策に必要な予算や人員などを明確にした上で、それらを準備できるかどうかを考えましょう。
Webマーケティングに必要な運営体制を作れる
D2Cでは、お客さまを集め、ファンになってもらうまでにさまざまなマーケティング施策を行う必要があります。そのために、マーケティングの知識がある人材を担当者として、PDCAを回していくための運営体制を作ることが必要です。社内に最適な人材がいない場合、外部の専門家の助けを借りることも検討しましょう。
独自性やマーケティング手法が大切になってくるんですね……。でも、いざ売り込み方を考えると難しいですよね。独自性なんてなかなか思いつきませんし……。
そうだね。たしかにD2Cブランドとして成功するのは難しいけど、実際D2Cブランドからスタートして大きな利益を上げている企業も多いんだよ。
最後に、D2Cの成功事例について説明するね。
日本におけるD2Cブランドの成功事例
最後に、日本国内でD2Cブランドとして成功している企業を、アパレル・食品・化粧品業界からそれぞれ紹介します。
【アパレル】クラウドファンディングの活用で話題に|ALL YOURS
「ALL YOURS(オールユアーズ)」は、着心地の良さにこだわった、「インターネット時代のワークウェア」をコンセプトとしたD2Cブランドです。
従来のアパレルブランドとは異なるビジネスモデルで、商品開発にクラウドファンディングを活用し、累計5,700万円超の支援を達成したことでも注目されています。
お客さまのことを「お客さん」と呼び、「共犯者」と表現する、顧客と独自の関係性を築いているブランドです。
【アパレル】確かな品質をコンテンツマーケティングで発信|土屋鞄製作所
「土屋鞄製作所」は、職人の技による高品質のレザーアイテムを展開するブランドです。商品の品質の確かさに加え、カタログやオウンドメディアで丁寧な情報発信を行うことで、着実なブランディングを行い、ファンを増やしています。
ECサイトだけでなく実店舗も運営しており、実店舗で商品の質感や手触りなどを確認した上で、ECサイトで購入するというオムニチャネル戦略も展開しています。
【食品】3年間で100万食突破!ベースフード株式会社
ベースフード株式会社は、完全栄養食のパンやパスタ「BASE FOOD」を販売するD2Cブランドです。自社サイトを中心に商品を販売しており、SNS広告やインフルエンサーを活用した施策を成功させて、販売開始から約3年で累計販売食数が100万食を突破しました。
ユニークな商品に加え、ファンによるアレンジを掲載したり開発ストーリーを漫画で公開したりすることで、独自のブランディングに成功しています。
【食品】インフルエンサーとの連携で新規獲得に成功|nosh
「nosh(ナッシュ)」は、ナッシュ株式会社が展開するヘルシー・低糖質を特徴とする冷凍宅配のD2Cブランド。独自の基準で糖質・塩分を抑えながらも、ネット上ですぐに注文でき、おいしく手軽に楽しめる種類豊富なメニューが人気です。
美容・ダイエット系インフルエンサーの他、動物系YouTuberやゲーム配信者と提携したWebマーケティング施策により、幅広いユーザー層での認知拡大、新規獲得に成功しています。
【化粧品】D2Cブランドから世界へ進出|BULK HOMME
メンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」は、D2Cブランドとして2013年に事業を開始。現在は小売店やヘアサロンでも商品を購入できるようになりましたが、今でも直販による定期購入をメインに事業を展開しています。
さまざまな賞を受賞し順調に売上を伸ばしている同ブランドは、2017年にアジア、2020年にイギリス・フランスへの進出を成功させています。
【化粧品】パーソナライズに特化したD2Cブランド|MEDULLA
「MEDULA(メデュラ)」は、パーソナライズヘアケアブランドとして株式会社Spartyが展開しているD2Cブランドです。30万通りの髪質診断データをもとにしたヘアケアアイテムの処方を行なっています。
ネット上での診断に答えると自分に合った処方が提案され、そのまま購入に進める独自のサービスと商品展開です。ネット上での直販による定期購入を中心として、フラッグシップストアも展開しています。
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