カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、商品やサービスの利用時における顧客体験のことです。
この記事ではCXの定義や重要性、戦略の立案手順までわかりやすく徹底解説します。
CXを向上させるマーケティング戦略で、利益の向上を目指しましょう。
今日は手が空いているのですが、なにか手伝うことはありますか?
お、ビギニャー君いいところに来たね。今日はうちのサービスのCX向上戦略を考えてみようと思っていたんだ。手伝ってくれるかい?
CXって、顧客体験のことですよね?
INDEX
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?
カスタマーエクスペリエンス(CX)は、利益向上を目指す企業であれば必ず押さえておきたい言葉です。ここでは、カスタマーエクスペリエンスへの理解を深めるために押さえておきたい、基本的な知識を紹介します。
- カスタマーエクスペリエンス(CX)の意味
- カスタマーエクスペリエンス(CX)の特徴
- カスタマーエクスペリエンス(CX)が重要な理由
- あわせて覚えておきたい関連用語
各項目の詳細をみていきましょう。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の意味
カスタマーエクスペリエンス(CX:Customer Experience)は、日本語に直すと「顧客体験」「顧客経験価値」という意味を持つ言葉です。
わかりやすくいうと、商品やサービスを利用したときにおける顧客視点の体験のことです。たとえば商品への満足度だけではなく、店員やコールセンターの対応、アフターサービスなど、購入前から購入後までのすべての体験が評価対象となります。
実は近年、マーケティング分野でカスタマーエクスペリエンスの重要性がグッと上がっていることをご存知でしょうか。
カスタマーエクスペリエンスの向上(CX向上)戦略を実施すると、ブランド価値が上がったり利益が上がったりと多くのメリットが得られます。ぜひ、顧客体験や提供できる価値を高めるCX向上にチャレンジしてみてくださいね。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の特徴
カスタマーエクスペリエンスには、次のような特徴があります。
感情に左右される
カスタマーエクスペリエンスは、顧客の感情に左右されます。
商品価値や機能をどれほど高めても、接客態度が悪かったりアフターサポートが適切でなかったりすれば、全体的な体験の評価は高められません。つまり、「物質的価値」だけでは、カスタマーエクスペリエンスの向上につながりにくいのです。
カスタマーエクスペリエンスを高めるためには、顧客のさまざまなプラスの感情を刺激することが大切です。例えば、接客業なら「親切・丁寧・笑顔が素敵」という感情、飲食業なら「清潔感・過ごしやすさ・雰囲気がいい」という感情を刺激すると、顧客体験を高められるでしょう。
スタッフの接客や空間などは顧客が直接購入する物質ではありませんが、このような「非物質的価値」を高めることこそが、カスタマーエクスペリエンスの向上には重要なのです。
長期的な取り組みが必要
カスタマーエクスペリエンスを向上させるには、長期的な取り組みが欠かせません。なぜなら、購入前から購入後までのすべてのプロセスにおいて、適切にアプローチする必要があるためです。
例えば、事前のお問い合わせで丁寧に顧客をサポートできても、購入時の接客や購入後のアフターフォローがいまいちだと、カスタマーエクスペリエンスを高めることはできません。事前のお問い合わせから購入時の接客、購入後のアフターフォロー、すべてのプロセスで一貫して満足してもらえるように取り組む必要があります。
特に、企業対企業の取引(BtoB)では購買プロセスが長期化しやすいため、より長期的な取り組みが必要になります。プロセスの一部、もしくは一時的な取り組みだけでは結果が出にくいことは、しっかりと理解しておきましょう。
カスタマーエクスペリエンス(CX)が重要な理由
マーケティング戦略でカスタマーエクスペリエンスが重要な理由は、自社の差別化につながるためです。
近年、技術の発展と競合他社の増加により、市場には似たような商品やサービスがあふれかえっています。例えば、パソコンひとつを取っても、メーカーや機種が多すぎてどれも同じように思えて迷ってしまいますよね。
商品やブランド力、価格に大きな差がなくなることを「コモディティ化」といい、現代の市場はこの現象によって自社の独自性をアピールすることが難しくなってきています。商品やブランド、価格だけで勝負できなくなったときに必要なのが、価値を上乗せすることです。
カスタマーエクスペリエンスを向上させれば、商品に「感情」という付加価値をつけられます。その結果、「接客が丁寧で信頼できる」「スタッフが好きだからついつい利用してしまう」というファンの定着、自社の差別化につなげられるのです。
近年は、インターネットの普及により消費者との接点(タッチポイント)が劇的に増えました。そのため企業は店舗での接客だけではなく、WebサイトやSNS、メールマガジンなどのデジタルマーケティングにおいても、カスタマーエクスペリエンスを重要視する必要があります。
あわせて覚えておきたい関連用語
カスタマーエクスペリエンスには、似たような意味をもつ関連用語が4つあります。
- ユーザーエクスペリエンス(UX)
- カスタマーサティスファクション(CS)
- デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)
- カスタマーサクセス
以下では、各関連用語の違いをみていきましょう。
ユーザーエクスペリエンス(UX)とは
ユーザーエクスペリエンス(UX:User Experience)とは、ユーザーがサービスを通じて得られる体験です。
ユーザーエクスペリエンスは「購買プロセスごとに独立した体験」、カスタマーエクスペリエンスは「購買プロセス全体を通した体験」を指しているという違いがあります。
ユーザーエクスペリエンス(UX)の例
- 購入前のお問い合わせ対応に満足できた
- 購入時の接客対応がいまいちだった……
- 購入後のアフターフォローは丁寧だった
→すべて独立している
カスタマーエクスペリエンス(CX)の例
購入時の接客対応はいまいちだったけど、購入前のお問い合わせ対応とアフターフォローは丁寧だったから、全体的には満足度が高い商品だった。
→トータルで評価している
ユーザーエクスペリエンスは、カスタマーエクスペリエンスをプロセスごとに細かく区切ったものであると考えておけばよいでしょう。
カスタマーサティスファクション(CS)とは
カスタマーサティスファクション(CS:Customer Satisfaction)は、顧客満足度を意味する言葉です。商品やサービスに関して、顧客がどれほど満足しているかを示す指標です。
カスタマーエクスペリエンスは、「体験を通して顧客が感じる感情的・心理的な価値」を指します。対してカスタマーサティスファクションは、「商品やサービスそのものに対する満足度」です。また、前者は顧客自身が評価を下し、後者は顧客の反応をもとに企業が評価を下す点も大きく異なります。
「CX=CS+感情的・心理的な価値」ということになります。カスタマーサティスファクションはカスタマーエクスペリエンスに欠かせない要素ですが、それだけではCX向上は実現できないことを押さえておきましょう。
デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)とは
デジタルカスタマーエクスペリエンスは、オンライン上のCXを指します。デジタルカスタマーエクスペリエンスには、サイトの使いやすさや広告の見やすさ、接客の質、購入後のメールによるフォロー体制など、あらゆる顧客体験が含まれます。
近年は実店舗だけではなく、インターネット広告やWeb接客、自社サイトなどを通して商品を購入する方が増えてきました。今後、顧客満足度を高めたり自社の商品を買ってもらったりするためには、デジタルカスタマーエクスペリエンスにも気を配らなければいけません。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスは、能動的に顧客へ働きかけて成功体験に導く取り組みです。日本語に直すと「顧客の成功」という意味になります。
例えば、自社サービスを活用できていない顧客にアドバイスしたり、ユーザーコミュニティを提供したりする施策が挙げられます。
企業が積極的に支援すれば、顧客に多くの感情的・心理的な価値を提供できます。つまりカスタマーサクセスは、カスタマーエクスペリエンスの向上戦略として有効な手法のひとつなのです。
ただ「商品がよかった」だけじゃ、お客さまを本当に満足させることは難しいんだよ。全体的な体験(=CX)を高めることで、ファン化やリピートを促すことが大切なんだ。
なるほどぉ……。でも、CXの向上って結構大変そうですね。購入前から購入後までのすべての体験に気を配らないといけないなんて……。
そうだね、簡単に効果が出る戦略ではないかな。それでも、CX向上に取り組む価値はあるんだよ。メリットがとっても多いからね。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上のメリット・デメリット
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上には、多くのメリットがあります。しかし、反対に気をつけなければいけないデメリットもあるため、双方を理解のうえ取り組む必要があります。
以下では、カスタマーエクスペリエンスの向上に取り組むメリット・デメリットをみていきましょう。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上のメリット
カスタマーエクスペリエンスの向上には、次の4つのメリットがあります。
- 顧客離れを防いでリピーターを獲得できる
- ライフタイムバリュー(LTV)が向上する
- ブランドイメージが向上する
- ロイヤルカスタマーが生まれる
各メリットの詳細を説明します。
顧客離れを防いでリピーターを獲得できる
カスタマーエクスペリエンスが高い商品やブランドは、顧客が離れにくい傾向にあります。
同じような品質・価格の商品が複数ある場合、よりサービスやサポートが親切な商品を選びたくなる顧客が多いためです。リピートしてくれる顧客が増えれば、安定した収益を得られるようになるでしょう。
ライフタイムバリュー(LTV)が向上する
ライフタイムバリュー(LTV)とは、顧客が生涯にわたって企業にもたらしてくれる利益です。
カスタマーエクスペリエンスが高い企業はリピーターだけではなく、「ここのブランドが好きだから関連商品も買おう」と思ってくれる顧客も増えます。その結果、顧客単価の大幅な向上が見込めるのです。
カスタマーエクスペリエンスが高くないブランドと比べると、ライフタイムバリューを高められる可能性があります。
ブランドイメージが向上する
カスタマーエクスペリエンスが高い企業は、ブランドイメージが向上します。
「あそこの企業は顧客を大切にしている」「この企業にしかない価値がある」と思ってもらえれば、企業の独自性確立につながりますよね。高いブランドイメージは、新しい顧客を呼び込む大きなきっかけになってくれるでしょう。
ロイヤルカスタマーが生まれる
ロイヤルカスタマーとは、企業や商品に高い愛着度を持った顧客です。自社のファンといってもよいでしょう。カスタマーエクスペリエンスが高いと、新規顧客をロイヤルカスタマーに育成しやすくなります。
ロイヤルカスタマーはリピーターになってくれるだけではなく、商品をSNSで拡散してくれたり知人におすすめしてくれたりと、企業にとっての広告塔になってくれる可能性があります。カスタマーエクスペリエンスを高めてロイヤルカスタマーを増やせれば、より認知度や売上を向上させるチャンスが得られるのです。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上のデメリット
カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上には、次のようなデメリットもあるため注意が必要です。
- 顧客情報の管理に手間やコストがかかる
- 情報共有の範囲に注意が必要
どのようなことなのか、詳しく説明します。
顧客情報の管理に手間やコストがかかる
カスタマーエクスペリエンスを向上させるには、一人ひとりに対するきめ細やかなサービス提供が欠かせません。
マンパワーだけですべての顧客のニーズを把握し、個々に最適なアプローチをすることは不可能です。そのため、MAツールやSFA、CRMなどのマーケティング支援ツールを使い、顧客情報の活用や業務効率化を図る必要があるのです。
マーケティング支援ツールは非常に便利ですが、導入する際の手間や運用コストがかかる点に気をつけなければいけません。また、ツールを導入したからといってすべての業務を自動化することはできないので、運用や施策にある程度のリソースを割く必要があることは押さえておきましょう。
情報共有の範囲に注意が必要
カスタマーエクスペリエンスの向上に取り組むときは、顧客情報の取り扱いに注意が必要です。
購入前から購入後までのすべてのプロセスにおける顧客体験を高めるカスタマーエクスペリエンス向上戦略には、部門の垣根を超えた取り組みが必要です。接客部門はもちろん、マーケティング部門やカスタマーサポート部門など複数の部門が連携してアプローチするためには、顧客情報の共有も不可欠になります。
だからといって、関係者全員が顧客に関するすべての情報にアクセスできる環境だと、プライバシー侵害や情報漏洩などのトラブルに発展するリスクが高まります。そのため、企業は個人情報を慎重に取り扱わなければいけないのです。
顧客と企業の両方を守るためにも、データの取り扱い方や情報開示の範囲をしっかりと決めておきましょう。
ええ!?CXの向上ってこんなにたくさんメリットがあるんですか……!?これはさっそく取り組まないと!
だから、うちの会社でもCX向上に力を入れているんだ~。CX向上戦略の立て方を説明するから、一緒に考えてくれるかな?
もちろんです、先輩っ!
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上戦略の立て方
カスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させるための戦略立案は、以下の手順で進めていきましょう。
- 顧客データの蓄積・分析
- ペルソナの設定
- カスタマージャーニーマップの作成
- 戦略の立案・実施
- 戦略の見直し
各プロセスの詳細をみていきましょう。
顧客データの蓄積・分析
まずは自社顧客のデータを蓄積し、分析しましょう。顧客の属性や行動などの情報は、カスタマーエクスペリエンス向上のカギとなる顧客ニーズを導き出すヒントとなります。
「自社顧客にはどのような傾向があるのか」「どのような問い合わせが多いのか」などを分析し、顧客が求めている商品やサービスを整理します。自社がすでに保有している情報のみならず、アンケートやインタビューで新しく情報を収集することもおすすめです。
ペルソナの設定
次に、自社商材を購入・利用してほしい具体的なユーザー像(ペルソナ)を設定しましょう。
カスタマーエクスペリエンスを向上させるためには、顧客の立場に立って施策を考えることが一番大切です。ペルソナを設定しておくと、よりリアルなニーズや心理状況、行動を把握できるようになります。
ペルソナは、とにかく具体的に設定することを意識しましょう。例えば、「40代男性、妻と4歳男児の3人家族で住まいは東京、趣味はゴルフで休日は家族と一緒にレジャーに行く。年収は600万円で…」と、できるだけ細かく人物像を作り上げることが重要です。
カスタマージャーニーマップの作成
顧客データとペルソナをもとに、カスタマージャーニーマップを作成しましょう。カスタマージャーニーマップは、顧客の感情や購買行動、企業との接点などの顧客体験プロセスを図にまとめ、可視化したものです。
カスタマージャーニーマップを作成すると、顧客(ペルソナ)が自社の製品やサービスと出会って興味を持ち、購入に至るまでの過程を客観的に整理できます。そうすれば、顧客の行動や感情の変化、企業との接点、最適なアプローチ経路(チャネル)、課題が具体的に理解できて、必要な施策のヒントが得られるのです。
戦略の立案・実施
自社の課題や顧客ニーズがしっかりと把握できたら、カスタマーエクスペリエンス向上のための戦略を立案しましょう。
ここで重要となるのは、課題に対する仮説を立てながら戦略を策定することです。例えば、「カスタマーサポートに不満がある顧客が多い」点が課題だった場合、スタッフ研修で対応品質を上げることでカスタマーエクスペリエンスが向上するかもしれません。
「こうすれば顧客は喜ぶだろう」と、企業の思い込みや一方的な判断で戦略を立てることは避けましょう。分析した内容をもとに顧客と自社の現状をしっかりと把握し、それに応じた戦略を立てて実施することが大切です。
また次の2点を意識すると、よりカスタマーエクスペリエンスを向上させる効果を高められます。
一貫性のあるアプローチ
複数の部門を横断して顧客にアプローチするときに意識したいのが、「一貫性」です。わかりやすくいいかえると、ブランドや商品コンセプト、各プロセスで矛盾のないアプローチをすることが重要となります。
「店員にはこう言われたのに、カスタマーサービスでは違うことを言われた」このように、一貫性のないアプローチをすると、顧客とスムーズなコミュニケーションをとることはできません。顧客を混乱させますし、ブランドイメージがダウンしてしまうこともあるでしょう。
大切なのは、どの部門・タッチポイントでも一貫性のある対応をすることです。そのためには、社内方針や認識のすり合わせ、社内システムの整備、スタッフの教育をしっかりと実施する必要があります。
One to Oneマーケティング
一人ひとりに最適なアプローチをする「One to Oneマーケティング」も、重要となります。これは、属性や行動などの顧客データを蓄積し、一人ひとりにマッチしたアプローチをすることを指します。
ニーズや消費行動が多様化した現代、消費者はより自分に寄り添ってくれる企業や商品を好むようになってきています。そのため、アプローチのパーソナライゼーションが不可欠なのです。
- 購入サイクルにあわせて消耗品を提案する
- 購入品に関連した商品をおすすめする
- ニーズにあわせてプランをカスタマイズする
このように、One to Oneマーケティングの手法はさまざまです。顧客ニーズを深く理解したうえで、個々に最適なアプローチの実現を目指しましょう。
戦略の見直し
考案した戦略が一発で効果を発揮することは、そう多くありません。成果が高い施策を実施するためには、何度も効果を測定して課題を発見し、よりよい施策に磨き上げていくことが肝心です。
カスタマーエクスペリエンスには、施策の成果が効果としてみえにくいというデメリットがあります。そのため、各フェースにおける細かい目標(KPI)をしっかりと設定して、効果を測定する指標にすることが大切です。
例えば、「Webサイトからの問い合わせを5%増やす」「アンケートの顧客満足度を0.5ポイント上げる」という内容がKPIとして挙げられます。KPIが達成できなかった場合は、改めて施策を見直してみて、改善できるポイントがないか考えてみましょう。
う~ん、CXの向上戦略ってやっぱり難しいですね……。せめて有効な手法が具体的にわかれば、少しは考えやすくなるのですが……。
そうだね。顧客の分析とか戦略の立案だけを聞いても、具体的に何をすべきかわかりにくいよね。それじゃあ、CX向上に役立つ手法の例をいくつか紹介しておこうかな。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上の具体的な手法
カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上戦略とだけ聞いても、具体的に何をすればよいのかイメージできない方は多いはず。
ここでは、CX向上に効果的な手法を具体的にみていきましょう。
- アプローチのパーソナライズ化
- オムニチャネル化
- カスタマーサービスの強化
- ロイヤリティプログラムの実施
- スタッフの教育
- フィードバックの反映
どのような手法なのか、詳細を説明します。
アプローチのパーソナライズ化
カスタマーエクスペリエンス向上においてもっとも重要なのが、アプローチのパーソナライズ化です。つまり、顧客ごとのニーズを把握し、それぞれに適した提案を行うことです。
例えば、「トレンド商品を検索した顧客に対して新商品のクーポンを配布する」「メンズ服を好む女性に対してメンズのおすすめアイテムも提案する」などの戦略が挙げられます。このような自分のニーズに沿った提案をされると、顧客はその企業やブランドに対して好意的な印象を抱きやすくなります。
アプローチのパーソナライズ化は、カスタマーエクスペリエンス向上戦略の基本となる重要な手法です。
オムニチャネル化
オムニチャネル化も、カスタマーエクスペリエンスの向上に有効な手法のひとつです。オムニチャネルとは、企業と顧客のあらゆる接点や販売経路(チャネル)を連携・統合し、総合的にアプローチしていく戦略です。
例えばオムニチャネルなら、「店頭で品切れだった商品を店員がECサイトで手配し、顧客のもとへ直接届けてもらう」ことが可能となります。従来であれば、「売り切れているので店頭に取り寄せますね」「ご自身でECサイトから購入していただけますか?」と案内されていたでしょう。
このようにオムニチャネルを導入すると、顧客はチャネルの違いを意識せずに快適な購買体験ができるようになります。そのため、カスタマーエクスペリエンスの大幅な向上につながる可能性があるのです。
カスタマーサービスの強化
カスタマーサービスの強化も、カスタマーエクスペリエンス向上に効果的です。
マニュアルに沿った機械的なカスタマーサービスでは、顧客のニーズを満たすことは難しいものです。顧客の要望や感情に寄り添い、個々に最適な対応を行ってこそ、顧客体験の向上を実現できます。
カスタマーサービスを利用する顧客の多くは商品やサービスに不安や課題を抱いているため、ここでのサービス品質によってCXは大きく左右されます。たとえマイナスの感情を抱いて連絡してきた顧客であっても、課題に寄り添った対応を行えばプラスの感情に転換することも可能です。
カスタマーサービスの強化は、顧客離れを防いでリピーターを獲得する重要なファクターとなるため、積極的に取り組むことをおすすめします。
ロイヤリティプログラムの実施
ロイヤリティプログラムとは、何度も利用してくれている優良顧客に特典を与える施策です。例えば、次のような施策が該当します。
- ポイント数に応じた割引を行う
- お得意様向けのシークレットセールを実施する
- ゴールド会員の送料を無料にする
- 購入金額が上位10%の顧客に新作を先行販売する
このようなロイヤルティプログラムは、カスタマーエクスペリエンスだけではなく、企業やブランドに対する愛着心や信頼感(ロイヤルティ)を高めます。他社に流れにくい熱狂的なファンの獲得に貢献してくれるでしょう。
スタッフの教育
どのような手法を取り入れるにせよ、スタッフ教育の実施は不可欠です。優秀なスタッフがいなければ、パーソナライズされたアプローチやカスタマーサポート品質向上などの各種施策は実施できないためです。
カスタマーエクスペリエンス戦略の重要性と目的をしっかりと周知のうえ、各部門のスタッフに必要な教育を実施しましょう。また、上司と部下との定期的なコミュニケーションや職場環境の整備など、優秀な人材を定着させるための取り組みも重要です。
この際、スタッフの負担が増えすぎないように配慮する必要があります。業務支援システムを上手に活用し、できるだけ業務を自動化・効率化することを目指しましょう。
フィードバックの反映
顧客から何らかのフィードバックがあったときは、それがよい内容であっても悪い内容であっても、しっかりと戦略に反映しましょう。
顧客からのフィードバックは、カスタマーエクスペリエンスを向上させる施策のヒントになります。評判のよい取り組みをより強化し、評判の悪い取り組みは早急に改善することで、顧客のニーズに沿ったアプローチの実現が目指せます。
多くのフィードバックが得られるよう、定期的に顧客アンケートを実施するとよいでしょう。
紹介したのはあくまで一例だから、自社にあった手法を見つけられるよう、試行錯誤を繰り返すことが大切だよ。
なるほど~!具体的な手法がわかったら、カスタマーエクスペリエンス向上戦略のイメージが湧きやすくなりました!先輩、ありがとうございます。
いえいえ、どういたしまして。ちなみに、こんなことを意識すると、もっと効率的にカスタマーエクスペリエンスを向上させられるようになるかも。
カスタマーエクスペリエンス(CX)向上のポイント
カスタマーエクスペリエンスの向上を目指すときは、次の4つのポイントを意識しましょう。
- 重要な5つの価値を理解する
- CXに直結する顧客体験を特定する
- 部署を横断して取り組む
- 他の指標と組み合わせる
各項目の詳細は、以下のとおりです。
重要な5つの価値を理解する
カスタマーエクスペリエンスを向上させるには、物質的価値だけではなく「非物質的価値」も提供する必要があります。代表的な非物質的価値としては、次の5つが挙げられます。
- 感覚的価値
- 情緒的価値
- 知的価値
- 肉体的価値
- 社会的価値
それぞれは、具体的にどのような価値のことを指すのでしょうか。詳細をみていきましょう。
感覚的価値
感覚的価値は、視覚や聴覚などの五感に関連する価値で、カスタマーエクスペリエンスに大きな影響を与えます。
例えば、飲食店で出された料理の味がそこそこでも、接客態度や店内の雰囲気がよければカスタマーエクスペリエンスが大きく低下することはありません。しかし、どれほど美味しい料理が出されたとしても、接客態度や店内の雰囲気が悪ければカスタマーエクスペリエンスがマイナスになってしまう可能性があります。
感覚的価値を向上させられれば、商品そのものや企業・ブランドへの評価向上も狙えます。感覚的価値は、カスタマーエクスペリエンスの基盤となる重要な要素なのです。
情緒的価値
情緒的価値は、顧客の感情や内面の感覚に関連する価値です。例えば、「おしゃれ」「安心できる」「魅力的に感じる」という感情が情緒的価値に含まれます。
商品やサービスを購入・利用することで幸福感や優越感などを与えられれば、情緒的価値を提供できていることになります。所有することがステータスになる高級腕時計は、情緒的価値の訴求をうまく行っている商材のわかりやすい例でしょう。
情緒的価値を提供できれば、ブランディングの確立やファンの獲得など、多くのメリットが得られます。
知的価値
知的価値は、顧客の知的探求心や創造性に訴えかける価値のことです。例えば、遊びながら学べる歴史テーマパークや、創造意欲が刺激される知育玩具などが該当します。
知的価値は商材との相性がありますが、うまく提供できれば熱狂的なファンの獲得が目指せます。また、他の商材にはない独自性の高い体験を提供できる点も大きなメリットです。
肉体的価値
肉体的価値は、ライフスタイルや行動に関する価値です。肉体に直接的な変化をもたらすこと以外にも、新しい体験を通して感情やライフスタイルに変化をもたらすことも含まれます。
肉体的価値をうまく提供しているサービスの例として、子ども向けの職業体験テーマパーク「キッザニア」が挙げられます。唯一無二の肉体価値を提供できれば、自社ならではの強い独自性を確立できるでしょう。
社会的価値
社会的価値は、特定の集団や文化、思想への帰属意識を刺激する価値です。例えば、応援しているスポーツチームのグッズを購入したり、好きな芸能人のファッションを真似たりする人が多いのも、そこに社会的価値を感じるためです。
社会的価値を提供できると、顧客はそのブランドの商品を購入・利用することに強い意味を感じてくれるようになります。他社への乗り換えリスクを減らせるため、顧客の囲い込み効果が得られます。
CXに直結する顧客体験を特定する
カスタマーエクスペリエンスに影響を与える顧客体験はさまざまですが、なかでも特に重要視される顧客体験は限られます。効率的にカスタマーエクスペリエンスの向上を目指すためにも、CXに直結する顧客体験を特定することが重要です。
例えば、ビジネスホテルは立地や価格、利用のしやすさが重要視されます。一方で温泉旅館は、サービスや雰囲気、接客対応が重要視されるでしょう。同じ宿泊業であっても、顧客が求める体験は異なるのです。
カスタマーエクスペリエンスに直結する顧客体験を特定するには、ペルソナやカスタマージャーニーマップの活用が有効です。顧客の行動やニーズをしっかりと分析し、優先順位をつけながら戦略を立案しましょう。
部署を横断して取り組む
カスタマーエクスペリエンス向上には、部署を横断した取り組みが不可欠です。CX向上戦略を実施する理由や具体的な取り組みを社内で共有し、理解を得てから取り組むことが大切です。
この際、カスタマーエクスペリエンスと収益指標の関連性を説明したり、顧客からのプラスの声をフィードバックしたりすることを意識しましょう。モチベーションが高まれば、すべての従業員が一丸となってCX向上へ取り組めるようになります。
他の指標と組み合わせる
カスタマーエクスペリエンスそのものを計測する指標は、実は存在していません。そのため、さまざまな指標を組み合わせて測定する必要があります。
カスタマーエクスペリエンスに関連する指標の一例としては、次のようなものが挙げられます。
- 顧客満足度(CS)
- NPS®︎
- CES
- 顧客獲得率
- 解約率
- LTV
これらの指標を測定して改善に努めれば、おのずとカスタマーエクスペリエンスの向上にもつながります。自社商材やビジネスモデルに適した指標をピックアップし、カスタマーエクスペリエンスの向上戦略に活かしましょう。
ふむふむ。提供する価値を工夫したり分析と改善を繰り返したりして、戦略的に取り組むことが大切なんですね!
そういうこと!カスタマーエクスペリエンスの成功事例も紹介しておくから、今後の参考にしてみてね。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の成功事例
カスタマーエクスペリエンスを向上してマーケティングを成功させた企業の事例を2つ紹介します。
信頼感の獲得でカスタマーエクスペリエンス向上|ソニー損保
ダイレクト自動車保険19年連続売上ナンバーワンのソニー損保は、ホームページ上でお客さまの声を紹介しています。自社にとって都合の悪い評価もしっかりと掲載し、それを受けてどのように改善したのかについても公開しています。
自社の良いところも悪いところも受け止める姿勢を示すことで、お客さまの信頼を獲得。「顧客の意見を聞いてもらえる」「悪いところは改善してもらえる」という安心感が、高いカスタマーエクスペリエンスを生み出しています。
すべての体験を商品に|スターバックス
Starbucks店舗のコンセプトは、「お客さまのサードプレイス(家でも職場でもない第3の場所)」。スタッフの接客やインテリア、コーヒーの香り、BGM、飲み物や食事などのあらゆる体験を「スターバックス体験」として、すべてを商品として提供しています。
「スターバックスにいると心地よい」と感じるファンが多いのは、飲食物だけではなく、スタッフや空間などの顧客体験すべてにこだわり抜いているからなのです。
聞いているだけでも、お客さんに質の高い体験を提供していることがわかりますね。僕も、こんな素敵な顧客体験を提供できる施策を立てられるようになりたいです!
よし、ビギニャー君のやる気も高まってきたことだし、さっそくわが社のCX向上戦略を立てていこうか!
はいっ、先輩!頑張るぞ~~~!
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WRITING 執筆
LIFT編集部
LIFT編集部は、お客様との深いつながりを築くための実践的なカスタマーエンゲージメントのヒントをお届けしています。